「法定耐用年数」「物理的耐用年数」「経済的耐用年数」の違い

本コラムは「わかりやすいこと」を目標としていますので、正確性に欠ける部分もあります。
実際案件の際には必ず税理士や不動産鑑定士にご相談ください。
建物耐用年数のあれこれ
建物耐用年数には、大きく分けて①法定耐用年数、②物理的耐用年数、③経済的耐用年数があります。
建物の耐用年数の話になったときに、これらをしっかりと区別しないと話が全く噛み合わなくなってしまいますので注意が必要です。
今回はこれらの耐用年数の違いや鑑定評価との関係についてわかりやすくご紹介します。
法定耐用年数
建物の耐用年数は、その構造ごとに財務省令で定められており、原則としてこれに基づき減価償却費の計算が行われます。
この省令で定められている年数が「法定耐用年数」と呼ばれています。

例えば「鉄筋コンクリート造の事務所」を見てみると50年間とされています。
法定耐用年数は、画一的に指標を与えるという意味では役に立ちますが、実際の耐用年数とは一致しません。
(例えば、①定期的に防水塗膜をしている建物と②全く何もしていない建物があったとして、①も②も同じ耐用年数というのは変です。)
物理的耐用年数
文字の通り建物の物理的な耐用年数の事です。
鉄筋コンクリート造の建物の物理的な寿命は65年以上あると言われています。
その根拠は「中性化と鉄筋の膨張」です。
一般的な鉄筋コンクリート造の建物の厚みは3㎝程度であり、毎年0.5mmずつ中性化していくと言われているため、約60年でコンクリートの中心まで中性化が進みます。
その後何も対応を取らないと5年ほどで鉄筋の錆びと膨張が進み、建物が寿命を迎えるというのが大雑把な根拠です。
経済的耐用年数
経済的耐用年数とは、市場で建物価値が認められる耐用年数のことです。
建物を継続使用するための補修・修繕費その他費用が、改築費用を上回るときの年数とも言えます。

少し古い資料ですが、この資料によると2005年鉄筋コンクリート造の事務所は51年程で取り壊されています。
これは物理的にはまだ使用可能であっても設備や意匠の陳腐化により市場競争力を失い、改修するよりも再築する方が経済合理的であると判断されたからだと考えられます。
(現在では建築工法の向上や社会の意識変化により上記よりも長くなっていると思われます。)
3つの耐用年数の長短関係
一般的には次のような長短関係になると考えられます。
経済的耐用年数 ≦ 物理的耐用年数
(法定耐用年数は無関係)
物理的な耐用年数が上限となり、その範囲で経済的耐用年数が決まります。
また、法定耐用年数は税務政策的な意図によって決まるもので、実際の耐用年数とは関係ありません。
(※個人的には「法定耐用年数」というより「法定償却年数」という表現の方が正しい気がします。)
不動産鑑定と耐用年数
不動産鑑定においては「原価法」という手法がありますが、この手法は「再調達原価」から「減価額」を引いて「積算価格」を求める手法です。

つまり「現時点で新築した場合の費用」から「現時点における価値減少分」を差し引いて「現時点における価格」を求めるわけですが、この減価額を求める方法に「耐用年数に基づく方法」があります。
耐用年数に基づく方法は、対象不動産の価格時点における経過年数及び経済的残存耐用年数の和として把握される耐用年数を基礎として減価額を把握する方法である。
不動産鑑定評価基準 総論第7章
少しわかりにくい文章ですが、【経過年数+経済的残存耐用年数】が不動産鑑定で用いる耐用年数であり、この耐用年数で減価額を求めなさいという意味です。
(この耐用年数は経済的耐用年数と同義です)
経済的残存耐用年数とは?
経済的残存耐用年数とは、価格時点において建物用途や状況に即し、物理的・機能的・経済的要因に照らして市場競争力を持続できると考えられる残存期間をいい、不動産鑑定士が判定します。
減価額は具体的には次のように求めます。
耐用年数により減価額を求める方法
- 不動産鑑定では法定耐用年数を使うのではなく、市場分析を行ったうえで、まず経済的残存耐用年数を判定します。
- 経済的残存耐用年数が判定されたら、これに経過年数を足して総耐用年数(=経済的耐用年数)を求めます。
- 総耐用年数に対する経過年数の割合で減価額を求めます。
まとめ
建物耐用年数には様々なものがありますが、法定耐用年数が最も有名です。
しかし、不動産鑑定は適正な経済価値を求めることを目的としていますので、機械的に法定耐用年数を使うことがあってはならないとされています。
(もちろん当社でも法定耐用年数は採用していません)
経済的残存耐用年数をどれだけ根拠と説得力を持って判定できるかがポイントであると考えています。
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