
期待利回りの意義
期待利回りは、賃料を求める手法の1つである「積算法」において使用される利回りです。
賃料から価格を求めるための利回りが「還元利回り」で
価格から賃料を求めるための利回りが「期待利回り」です。
期待利回りと還元利回りは表裏一体と言えます。
期待利回りとは、賃貸借等に供する不動産を取得するために要した資本に相当する額に対して期待される純収益のその資本相当額に対する割合をいう。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第2節Ⅱ1
期待利回りの求め方
期待利回りを求める方法については、収益還元法における還元利回りを求める方法に準ずるものとする。
不動産鑑定評価基準 総論第7章第2節Ⅱ1
この場合において、賃料の有する特性に留意すべきである。
期待利回りを求める方法は基準上、具体的には記載されておらず「還元利回りを求める方法に準ずる」とされています。
ただし、賃料の有する特性に留意すべきと記載があります。
また、期待利回りの判定に当たっては、地価水準の変動に対する賃料の遅行性及び地価との相関関係の程度を考慮する必要がある。
不動産鑑定評価基準運用上の留意
期待利回りを求める方法は、還元利回りを求める方法に準ずると記載されていますので、還元利回りを求める方法をご紹介します。
還元利回りを求める方法
- 類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
- 借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法
- 土地と建物に係る還元利回りから求める方法
- 割引率との関係から求める方法
- 借入金償還余裕率の活用による方法
- 投資家の意見等による方法
- (基準外)金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法
①類似の不動産の取引事例との比較から求める方法

(ア)類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
不動産鑑定評価基準 総論第7章Ⅳ3+運用上の留意事項
この方法は、対象不動産と類似の不動産の取引事例から求められる利回りをもとに、取引時点及び取引事情並びに地域要因及び個別的要因の違いに応じた補正を行うことにより求めるものである。
取引事例から得られる利回り(以下「取引利回り」という。)については、償却前後のいずれの純収益に対応するものであるかに留意する必要がある。
あわせて純収益について特殊な要因(新築、建替え直後で稼働率が不安定である等)があり、適切に補正ができない取引事例は採用すべきでないことに留意する必要がある。
この方法は、対象不動産と類似性の高い取引事例に係る取引利回りが豊富に収集可能な場合には特に有効である。
②借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法

(イ)借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法
この方法は、対象不動産の取得の際の資金調達上の構成要素(借入金及び自己資金)に係る各還元利回りを各々の構成割合により加重平均して求めるものである。
この方法は、不動産の取得に際し標準的な資金調達能力を有する需要者の資金調達の要素に着目した方法であり、不動産投資に係る利回り及び資金調達に際する金融市場の動向を反映させることに優れている。
上記による求め方は基本的に次の式により表される。R=RM×WM+RE×WE
不動産鑑定評価基準 総論第7章Ⅳ3+運用上の留意事項
R:還元利回り
RM:借入金還元利回り
WM:借入金割合
RE:自己資金還元利回り
WE:自己資金割合
③土地と建物に係る還元利回りから求める方法

(ウ)土地と建物に係る還元利回りから求める方法
この方法は、対象不動産が建物及びその敷地である場合に、その物理的な構成要素(土地及び建物)に係る各還元利回りを各々の価格の構成割合により加重平均して求めるものである。
この方法は、対象不動産が土地及び建物等により構成されている場合に、土地及び建物等に係る利回りが異なるものとして把握される市場においてそれらの動向を反映させることに優れている。
上記による求め方は基本的に次の式により表される。R=RL×WL+RB×WB
不動産鑑定評価基準 総論第7章Ⅳ3+運用上の留意事項
R:還元利回り
RL:土地の還元利回り
WL:土地の価格割合
RB:建物等の還元利回り
WB:建物等の価格割合
④割引率との関係から求める方法

(エ)割引率との関係から求める方法
不動産鑑定評価基準 総論第7章Ⅳ3+運用上の留意事項
この方法は、割引率をもとに対象不動産の純収益の変動率を考慮して求めるものである。
この方法は、純収益が永続的に得られる場合で、かつ純収益が一定の趨勢を有すると想定される場合に有効である。
還元利回りと割引率との関係を表す式の例は、次のように表される。
R=Y-g
R:還元利回り
Y: 割引率
g:純収益の変動率
⑤借入金償還余裕率の活用による方法

(オ)借入金償還余裕率の活用による方法
不動産鑑定評価基準運用上の留意事項
この方法は、借入金還元利回りと借入金割合をもとに、借入金償還余裕率(ある期間の純収益を同期間の借入金元利返済額で除した値をいう。)を用いて対象不動産に係る純収益からみた借入金償還の安全性を加味して還元利回りを求めるものである。
この場合において用いられる借入金償還余裕率は、借入期間の平均純収益をもとに算定すべきことに留意する必要がある。
この方法は、不動産の購入者の資金調達に着目し、対象不動産から得られる収益のみを借入金の返済原資とする場合に有効である。
上記による求め方は基本的に次の式により表される。
R=RM×WM×DSCR
R:還元利回り
RM:借入金還元利回り
WM:借入金割合
DSCR:借入金償還余裕率(通常は1.0 以上であることが必要。)
⑥投資家の意見等よる方法

また、必要に応じ、投資家等の意見や整備された不動産インデックス等を参考として活用する。
不動産鑑定評価基準運用上の留意事項
⑦(基準外)金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法

(ウ)金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法
不動産鑑定評価基準 総論第7章Ⅳ3
この方法は、債券等の金融資産の利回りをもとに、対象不動産の投資対象としての危険性、非流動性、管理の困難性、資産としての安全性等の個別性を加味することにより求めるものである。
この方法は不動産鑑定評価基準において、割引率を求める方法とされており、還元利回りを求める方法には記載がありません。
ただ、実務上この方法を使って還元利回りを求める鑑定士もいますのでご紹介します。
期待利回りの具体的求め方
一般的には、類似の不動産の純賃料に対する基礎価格の割合(=期待利回り)から比準して得た利回り(=比準利回り)を考慮して求める方法が多いのではないかと感じています。
また、オフィスビル等の場合、投資家の意見等による方法も十分に活用できる可能性があります。
還元利回りとの比較事項
期待利回りと還元利回りの相違点等についてまとめると概ね次の通りです。
・賃料の有する期間的性格
還元利回り⇒不動産の存する全期間に対応
期待利回り⇒不動産の存する一期間に対応
・純収益の変動予測
還元利回り⇒純収益の変動予測を織り込む
期待利回り⇒純収益の変動予測は織り込む必要がない
・利回りベース
還元利回り⇒純収益に資本的支出を計上する場合はNCFベース
期待利回り⇒一般的に資本的支出を計上しないのでNOIベース
なお、従前の鑑定評価基準では【必要諸経費に減価償却費を計上して、期待利回りは償却後の純収益に対応する利回りを用いる】ものとされていましたが、H26年の基準改正により、【減価償却費を計上しない場合には期待利回りも「償却前純収益」に対応するものを用いる】ことが明記されました。
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