不動産鑑定評価書のドラフト

不動産鑑定を依頼すると「ドラフト」という言葉が出てくることがあります。
一般の方にはあまり馴染みがない言葉かと思いますので、今回はこの「ドラフト」についてご紹介します。
ドラフトとは?
不動産鑑定は一般的に次のような流れになります。
- お問合わせ・ご依頼
- 必要資料の受領
- 現地調査
- 評価作業
- ドラフトのご提示
- 鑑定評価書の御納品

ドラフトの意味を辞書で調べると次のように出てきます。
ドラフト(draft)
1.人を選抜すること。→ドラフト制
2.下書き。草稿。
3.洋裁で、型紙の輪郭を描いた下図。
デジタル大辞泉より引用
一番有名なのは、【1.選抜】という意味かと思いますが、不動産鑑定で「ドラフト」という言葉が出てきたら、【2.下書き・草稿】という意味になります。
つまり、鑑定評価書の下書きという意味です。
ドラフト交付のルール

不動産鑑定業者は鑑定評価の作業がある程度進んだ段階で、依頼者様にドラフトを交付することがあります。
このドラフト交付については、不動産鑑定業者が準拠すべき「業務指針」に次の規定があります。
業務受任後に依頼者等から成果報告書の交付に先がけてドラフトの交付を求められる場合があるが、その形式に関わらず依頼者に価格等を示す行為は、不動産鑑定士として価格等の判断を示すことであるので、ドラフト交付後は、原則として価格等の変更は行ってはならない。
不動産鑑定業者の業務実施態勢に関する業務指針
「かんぽの宿売却問題」では、ドラフト提出後に理由なく価格が大幅に変更されたことが問題となり、不動産鑑定士等が処分されました。
(依頼者プレッシャーの存在も明らかになっています)
このようなことがないようにドラフト交付後の価格変更は原則として認められていません。
ただし、下記に記載するような合理的な理由がある場合には認められます。
ただし、ドラフト交付後に、価格等調査の前提条件、資料の変更・解釈その他合理的な理由によって価格等を変更することとなった場合は、不動産鑑定業者内であらかじめ定められた手続き等に従って対応するものとする。
この場合において、価格等の変更に至った合理的な理由についてを文書等に記録するなど、後日依頼者その他に説明が可能な状態にするものとする。
不動産鑑定業者の業務実施態勢に関する業務指針
証券化対象不動産の鑑定評価

証券化対象不動産の鑑定評価の場合、さらにルールが定められています。
「証券化対象不動産の鑑定評価」の場合は、その利害関係者が多岐にわたり、不特定多数の投資家に重大な影響を及ぼすことから、「厳密な規定」が定められているわけです。
証券化対象不動産の場合のドラフト

証券化対象不動産の鑑定評価の場合、ドラフトについても詳細なルールが定められています。
鑑定評価額決定前におけるドラフトの提出を求められた場合には、鑑定評価の前提条件や資料が整わない段階におけるドラフトの内容は、対象不動産の評価額や個別的要因が最終的な鑑定評価書と異なることとなる可能性が大きいので、提出に当たっては利用する第三者に誤解の生じることの無いように十分に留意する。
証券化対象不動産の鑑定評価に関する実務指針
ドラフトが正式な不動産鑑定評価書ではないことをはっきりと示すために次の対応を取ることが要請されています。
具体的には、次のような対応をとる必要がある。
① 表紙を含め、全頁にドラフトである旨の表示を行う。
証券化対象不動産の鑑定評価に関する実務指針
② 不動産鑑定士の署名又は記名は行わない。
③ 鑑定評価を行った日に代えてドラフトとしての評価を行った日を明記する。
④ 対象不動産の状況、資料等について、最終的な鑑定評価書で採用するものとの違いを明確に記載し、鑑定評価額が変わる可能性があることを明確に記載する。
⑤ ドラフト提出時点における不明事項(最終的には確認する事項)を記載する。
⑥ 依頼者等が修正可能なファイル形式等では提出しない。
まとめ
「ドラフト」は必ず提出しなければいけないものではありませんが、依頼者様に評価の内容をご理解いただき、ご納得してご査収頂くことを目的として多くの鑑定業者で作られているかと思います。
また、万が一事実や前提条件に誤りがあった場合に、鑑定評価書として正式に発行する前に修正が可能という利点もあります。
ドラフトをみてわからないことや気になったことがありましたら、ぜひ不動産鑑定士に聞いてみてください。
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