不動産鑑定評価書の電子化と電子署名

テレワーク・デジタル化・ペーパーレス化が進む昨今、鑑定評価書も電子化の流れが進んでいるように感じています。
当社におきましても不動産鑑定評価書の電子化を導入しておりますので、今回は不動産鑑定評価書の電子化についてわかりやすく簡単にご紹介します。
鑑定評価書と署名

まず大前提として、「不動産鑑定評価書には不動産鑑定士が署名をしなくていけない」ということが法律に定められています。
鑑定評価書には、その不動産の鑑定評価に関与した不動産鑑定士がその資格を表示して署名しなければならない。
不動産の鑑定評価に関する法律 第39条2項
(なお、押印義務は2021年9月1日以降廃止になりました)
そこで、この「署名」には「電子署名」も含まれるのか解釈の余地がありますが、「電子署名」もOKと国土交通省が言っています。
このような経緯があり、電子署名付きの不動産鑑定評価書が認められることになりました。
そもそも電子署名とは?

本来、紙の評価書であれば、署名(自筆のサイン)をすることで、その人が作成したものであることが強く推定されます。
しかし、データ(PDF)の評価書は、簡単に書き換えることができてしまうため、本当にその人が作成したのか、改ざんされていないのかわかりません。
そこで、データの評価書であっても「①その評価書が署名者本人が作成したものであること」さらに「②その内容が勝手に変更されていないこと」を証明するための仕組みが電子署名です。
よく間違われてしまいますが、電子署名とはAdobe Acrobat Readerの「自分で署名」のような機能で自分のサインや印鑑の画像をPDFに貼り付けるだけのことではありません。
電子署名は具体的には次のような仕組みになっています。
①認証局と呼ばれる第三者機関において不動産鑑定士の資格と本人確認が行われます
②認証局において電子証明書と呼ばれる証明書が発行されます
③電子署名がされた評価書を受け取った人は、電子署名と電子証明書の一致を確認します
⇒①から③の過程を経て、その評価書が不動産鑑定士本人が作成し、内容が改ざんされていないことが証明されます
電子署名不動産鑑定評価書の見本
電子署名付きの不動産鑑定評価書の見本がこちらです。

先述した通り、自筆署名や印鑑が電子署名なのではなく、その下の部分が電子署名となっています↓

(実際にはPDFのこの部分をクリックすることで署名のステータスが表示されます)
鑑定業界における電子署名の利用状況
東京都不動産鑑定士協会の電子署名に係るアンケート結果(令和3年8月)によると、491名の会員のうち、436名の会員は電子署名を利用したことがないそうです。(なんと88.8%が未利用の計算になります)
この数値をみるとほとんどの鑑定業者が使っていないように思えますが、鑑定業者のホームページを見てみると、大手の不動産鑑定業者はかなり導入していることがわかります。
将来的に鑑定評価書の電子化は当たり前になってくると思いますので、当社においても電子署名付きの不動産鑑定評価書を導入しています。
電子署名付き評価書のメリット

保管場所をとらない
電子データであれば、物理的なスペースをとることがなくパソコンに保存可能です。
簡単に検索できる
パソコンに保存してバックアップさえ取っておけば、消える心配はありませんし、どこに保存したのか、また評価書の内容を調べるときにも一発で検索可能です。(評価書は通常50ページを超えるので非常に便利です)
電子署名付き評価書のデメリット

電子署名の仕組みがわかりにくい
電子署名サービス会社は多数あり、また、その仕組みがややわかりにくいこともあり、現時点では広く普及していません。
費用が発生
電子署名サービスを使用するにはそれなりの費用が発生してしまいます。
まとめ
以上のように現時点では導入コストが全体的に高く、また仕組みもわかりにくいため評価書の電子化は広く普及していないのが現状です。
とはいえ電子署名のサービスは今後、コスト低下・サービス向上が見込まれますので、今後の発展が楽しみです。
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