不動産鑑定評価書の電子化に関するQ&A

はじめに
不動産鑑定評価書には不動産鑑定士の署名を行うことが法律上定められていますが、この署名は電子署名でも可能と解釈されています。
しかし、電子署名された鑑定評価書についてはこれまで実務的な指針がなかったことから、ややわかりにくい状況でもありました。
詳しくはこちらをご覧ください↓
このような状況のなか、このたび日本不動産鑑定士協会連合会から「不動産鑑定評価書の電子化に関するQ&A」が公表されました。
(令和4年3月公表)
依頼者様の立場からのQ&A
公表された「不動産鑑定評価書の電子化に関するQ&A」は不動産鑑定業者の質問に対する回答となっていますが、本コラムは不動産鑑定士向けではなく、一般の方向けのコラムですので、一般の方からの疑問に置き換えてご紹介します。
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電子鑑定評価書を依頼した場合でも、紙の鑑定評価書はもらえますか?
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業者によって対応は異なりますので、個別的にお問い合わせ下さい。
(当社の場合は、紙の鑑定評価書も2部発行します)
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電子鑑定評価書と紙の鑑定評価書が両方発行された場合、どちらが原本となりますか?
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電子鑑定評価書は、その真正性が確保されているため原本となります。
一方「紙の鑑定評価書」も不動産鑑定士が署名をすることによって原本となります。
その両方が発行された場合に原本が複数存在することは望ましくはないため、紙の鑑定評価書も交付する場合には署名を行わずに「写し」として交付することが推奨されています。
したがっていずれも発行される場合には「電子鑑定評価書」が原本となることが通常であると考えられます。
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電子鑑定評価書にタイムスタンプはついてますか?
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業者によって対応は異なりますので、個別的にお問い合わせ下さい。
なお、不動産の鑑定評価に関する法律では、鑑定評価書の作成時刻の完全な照明を要求している規定がないことから、タイムスタンプまでは求められていないと解釈されています。
タイムスタンプは信頼性を高めるのに有用ですが、一方で安価でない費用も発生するため、依頼に際しては費用面からの検討も必要です。
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不動産鑑定業者の電子署名がなくても有効ですか?
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法律上の義務は不動産鑑定士の署名(電子署名を含む)であり、不動産鑑定業者の電子署名は必須ではありません。
したがって、電子鑑定評価書に鑑定業者の電子署名や印影がなくても法律上の問題はないと考えられます。
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電子署名情報に不動産鑑定士の登録証明や鑑定業者の所属証明がないのですが?
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電子署名法上、不動産鑑定士登録証明や不動産鑑定業者の所属証明を登載することまでは求められていないと解釈されています。
したがって、これらがなくても問題はないと考えられます。
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電子鑑定評価書に誤りがあった場合、どのように修正してくれるのですか?
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修正が必要な場合、修正箇所のほか「鑑定評価を行った日」と「発行日」を新たな日付に変更し、再度電子署名を行って再交付することになります。
電子鑑定評価書は回収が困難であることから、不動産鑑定業者はこのようなことがないように細心の注意を払って評価を行っています。
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電子鑑定評価書のPDFファイルを(電子)コピーした場合、正本と副本の区別はありますか?
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電子鑑定評価書は、その真正性が確保されているため、正本・副本という概念自体がなくなります。
したがって、コピーしたPDFファイルはいずれも正本ということになります。
なお、電子鑑定評価書を紙に印刷した場合には「写し」という扱いになります。
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受領した電子鑑定評価書を勝手に(電子)コピーしてもいいですか?
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依頼者様の必要な範囲でコピーして頂くことは問題ありません。
ただし、鑑定評価書に記載された提出・開示・公表先以外の者にデータを送る場合には不動産鑑定士等の承諾が必要になりますので、十分ご注意ください。
※不動産鑑定評価書にはほぼ必ず次のような文言が記載されています。
後日、本鑑定評価書の依頼者以外の提出先若しくは開示先が広がる場合又は公表する場合には、当該提出若しくは開示又は公表の前に当社あて文書を交付して本鑑定評価の担当不動産鑑定士及び当社の承諾を得る必要がある。
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使っている電子署名サービスを教えて下さい。
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不動産鑑定業者ごとに異なりますので、個別にお問い合わせ頂く必要があります。
不動産鑑定業者が利用している代表的な電子署名サービスは次のようなものです。
電子化のメリット・デメリット
依頼者様の立場からすると、電子署名の仕組みが少し分かりにくい反面、検索や共有が容易で保管も便利なことからメリットが多いような気がしています。

社内で簡単に共有できる!

保管場所を取らなくていい!

調べたいワードですぐに該当箇所を検索できる!

電子署名の仕組みがよくわからない!
一方で、鑑定業者の立場としては、本来の提出先等を逸脱した範囲に鑑定評価書が拡散してしまうリスクや、もしも修正があった際に修正前の鑑定評価書の回収が困難であるなど、気を遣うことが多いです。

本来の提出先以外に拡散してしまわないかな?

もし修正が必要になった場合に、修正前の鑑定評価書の回収が困難だな
まとめ
今まで業界としての指針がなく、非常に不明瞭だった電子鑑定評価書ですが、連合会がQ&Aを公表してくれたのでクリアになってきました。
先述した通り、鑑定業者のデメリットも大きいことから二の足を踏む鑑定業者も多いかと思いますが、今後長い目で見たら、ほぼ確実に電子鑑定評価書が主流になるのではないかと思っています。
当社では法的、技術的な問題を検証したうえで、積極的に電子鑑定評価書を取り入れていきたいと考えています。
不動産鑑定士

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