不当鑑定と処分

不動産鑑定士が行う不動産鑑定評価は、不動産の適正な経済価値を判断するもので、依頼者や利害関係者に重大な影響を及ぼすものです。
不動産鑑定士はこのことを常に意識して鑑定評価を行うべきですが、なかには故意にまたは過失によって適切ではない鑑定評価が行われてしまう場合もあります。(以下、不当鑑定と呼びます)
今回は「不当鑑定」に対してどのような処分がなされるのかご紹介します。
全体像
「不動産の鑑定評価に関する法律」第40条には不動産鑑定士への懲戒処分が規定されており、第41条には不動産鑑定業者への監督処分が規定されています。
また、これらを処分を具体的にどのように決定するかを定めたものに「不当な鑑定評価等及び違反行為に係る処分基準(国土交通省)」があります。
さらには不動産鑑定士の任意加入団体である不動産鑑定士協会連合会にも「懲戒規定」が定められています。
少し細かい話になってしまいますが、「鑑定評価業務」だけでなく「隣接・周辺業務」であっても処分の対象となります。
また、処分結果は官報と国土交通省のウェブサイトに掲載されます。
不動産鑑定士に対する処分(懲戒処分)
まずは条文を引用します。
第四十条 国土交通大臣は、不動産鑑定士が、故意に、不当な不動産の鑑定評価その他鑑定評価等業務に関する不正又は著しく不当な行為(以下「不当な鑑定評価等」という。)を行つたときは、懲戒処分として、一年以内の期間を定めて鑑定評価等業務を行うことを禁止し、又はその不動産鑑定士の登録を消除することができる。不動産鑑定士が、第六条又は第三十三条の規定に違反したときも、同様とする。
2 国土交通大臣は、不動産鑑定士が、相当の注意を怠り、不当な鑑定評価等を行つたときは、懲戒処分として、戒告を与え、又は一年以内の期間を定めて鑑定評価等業務を行うことを禁止することができる。
3 国土交通大臣は、不動産鑑定士が、前二項の規定による禁止の処分に違反したときは、その不動産鑑定士の登録を消除することができる。
不動産の鑑定評価に関する法律 第40条
簡単にまとめると次の通りです。
条文 | 行為 | 処分 |
---|---|---|
第40条1項前段 | 故意に不当な鑑定評価を行った場合 | 登録消除・業務停止・注意 |
第40条1項後段 | 守秘義務違反・無登録業務 | 登録消除・業務停止 |
第40条2項 | 相当の注意を怠り不当な鑑定評価等を行った場合 | 業務停止・戒告・注意 |
処分が重い順に、登録消除⇒業務停止⇒戒告⇒注意となっています。
(登録消除されると不動産鑑定士はその資格を失いますので非常に重い処分です)
では具体的にどのように処分がきまるかというと、「①評価手順の不当性」と「②適正価格との乖離」の程度によって処分の重さが決まります。
①評価手順の不当性の判断方法
次の基準等によって不当性が判断されます。
・価格等調査ガイドライン(国土交通省)
・不動産鑑定評価基準(国土交通省)
・実務指針等(連合会)
・基本的考え方(国土交通省)
※国土交通省が、成果報告書を分析し、作成した不動産鑑定士や依頼者にヒアリングを行い、資料調査を行ったうえで上記の基準等に照らして判定します。
②適正価格との乖離
適正価格は次のような指標によって判断されます。
・地価公示の標準地価格や地価調査の基準地価格
・取引事例
・市場動向等
※国土交通省が、上記価格水準または賃料水準をもとに判定します。
不動産鑑定業者に対する処分(監督処分)
まずは条文を引用します。
第四十一条 国土交通大臣又は都道府県知事は、その登録を受けた不動産鑑定業者が次の各号のいずれかに該当するときは、その不動産鑑定業者に対し、戒告を与え、一年以内の期間を定めてその業務の全部若しくは一部の停止を命じ、又はその登録を消除することができる。
一 この法律又はこの法律に基づく国土交通大臣若しくは都道府県知事の処分に違反したとき。
二 不動産鑑定業者の業務に従事する不動産鑑定士が、前条の規定による処分を受けた場合において、その不動産鑑定業者の責めに帰すべき理由があるとき。
不動産の鑑定評価に関する法律 第41条
条文 | 行為 | 処分 |
---|---|---|
第41条1項 | 鑑定法違反又は処分違反 | 業務停止・(登録消除) |
第41条2項 | 従事不動産鑑定士の懲戒処分に係る業者の責めに帰すべき理由 | 業務停止・(登録消除・戒告) |
業者への処分は原則として業務停止になりますが、処分違反や特に責任が重い場合には「登録消除」になります。
(反対に軽い場合には「戒告」になります)
不動産鑑定士協会連合会の規定(会員への懲戒規定)
最後に日本不動産鑑定士協会連合会の懲戒規定をご紹介します。
第13条 会長は、次の各号の一に該当する事実がある会員を懲戒することができる。
⑴ 法令等によって処分を受けたとき。
日本不動産鑑定士協会連合会 定款
⑵ 鑑定法第3条第1項及び第2項の業務につき不動産鑑定士の品位又は信用を傷付ける行為があったとき。
⑶ 定款、規則、規程又は総会の議決に違反する行為があったとき。
⑷ 本会の名誉を傷付け、又は目的に反する行為があったとき。
⑸ その他懲戒すべき正当な事由があるとき。
不動産鑑定士は日本不動産鑑定士協会連合会への加入義務まではありませんので、これらの懲戒は会員に対するものになります。
(ただし、加入しなければ実質的に営業するのが困難な仕組みです)
懲戒は、次の3種とする。
⑴ 戒告
日本不動産鑑定士協会連合会 定款
⑵ 定款によって会員に与えられた権利の停止
⑶ 除名
戒告
戒告とは、懲戒請求を受けた者の行為が懲戒に該当することを告げ知らせ、今後を戒める処分のことです。
定款によって会員に与えられた権利の停止
権利とは、役員候補者の選出、総会傍聴、研修会への参加、サービスの利用等をいい、これらの権利が停止されます。
除名
除名とは会員としての資格を奪い、会員名簿から名前が除かれることです。
不当鑑定が疑われる場合には
それでは不当鑑定が疑われる場合にどのようにすれば良いのでしょうか。
この点じつは「誰でも、国土交通大臣(または知事)に対して措置を取ることを求めることができる」ことになっています。
第四十二条 不動産鑑定士が不当な鑑定評価等を行つたことを疑うに足りる事実があるときは、何人も、国土交通大臣又は当該不動産鑑定士がその業務に従事する不動産鑑定業者が登録を受けた都道府県知事に対し、資料を添えてその事実を報告し、適当な措置をとるべきことを求めることができる。
不動産の鑑定評価に関する法律 第42条
まとめ
今回は不当鑑定と処分についてご紹介しました。
たとえば「鑑定評価額を高く(安く)評価してほしい」というご依頼があったとします。
結果として鑑定評価額が依頼目的に合致するのであれば問題ありませんが、依頼者様に迎合するように故意に鑑定評価額を歪めるのは不当鑑定となります。
不当鑑定と認められれば、
- 不動産鑑定士は懲戒処分され
- 不動産鑑定業者は監督処分され
- 依頼者様は鑑定評価の依頼目的を達することができない。(税務署から否認・裁判で敗訴・監査に通らない等々)
となりますので誰も得をしません。
つまり、不動産鑑定業者がこのような依頼を受託できないのは自らのためだけではなく、依頼者様のためでもあるわけです。
なお、実際に評価をしてみなければ結果がわからないというのでは、依頼するのに躊躇されるのも当然かと思います。
その場合次のような依頼方法がおすすめです。
おすすめ依頼方法
全ての鑑定業者で行っているとは限りませんが、まず概算の評価額を計算してもらってから、本依頼をするか判断するという方法があります。
この方法であれば、依頼者様の費用や時間を無駄にすることがありませんのでおススメです。
(2022年6月22日追記)
ただし複数の鑑定業者から概算額を聞き、その中で最も都合の良い業者を選び、さらにその業者の鑑定報酬が一番安くなるように交渉したJ-REITが行政処分されました。
J-REITや上場企業のような多数の利害関係者に影響を及ぼす依頼者様の場合「不適切な不動産鑑定業者選定プロセス」と認められ、多大な不利益を被る可能性があります。
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