依頼者プレッシャー通報制度とは?

今回は平成24年7月1日から適用された「依頼者プレッシャー通報制度」についてわかりやすくご紹介します。
依頼者プレッシャーとは?
依頼者様が不動産鑑定を依頼するのには、目的があります。
(単に評価額を知りたいというだけというお客様はほとんどいません)
その目的とは、裁判だったり、税務だったり、企業会計だったりするわけですが、多くの依頼者様は「〇〇円くらいで評価額がでたらいいな」という気持ちを持っています。
「〇〇円くらいの評価額がでたらいいな」と鑑定士に伝えるだけであれば問題はありませんが、中には度を超えて鑑定評価額を強要するような依頼者もいるそうです。
たとえば「鑑定評価額を高く出さないと、今後仕事をまわさないぞ!」などです。
このような依頼者による鑑定士への強要を「依頼者プレッシャー」と呼びます。
依頼者プレッシャーとは、依頼者が行う、一定の鑑定評価額等の強要・誘導や妥当性を欠く評価条件の設定の強要等をいう。
鑑定評価監視委員会規程に基づく依頼者プレッシャー通報制度(平成26年9月)
具体例
「プレッシャー」と認定されるのは一定の強要性が必要で、例えば次のようなものです。

鑑定評価額を〇億円にしてくれないなら、今後は御社に依頼するのやめて別の業者にするぞ!

思ってた鑑定評価額じゃないから依頼を取り消すよ
このような場合には「プレッシャー」と認定されることになります。
逆に、依頼者様が思う価格を鑑定業者に伝えるだけであれば「プレッシャー」とは言えませんので問題ありません。
(希望価格の伝達、目線合わせなどと呼ばれたりします)
依頼者プレッシャー通報制度とは?
依頼者からプレッシャーを受けた鑑定業者や鑑定士は日本不動産鑑定士協会連合会に通報することが義務付けられました。
具体的には次の2つの義務があります。
- 依頼者から不当な働きかけを受けた場合⇒通報・調査請求義務
- 年に1回の定期報告義務
鑑定業者から連合会へ通報があった場合には、連合会において審議の上、依頼者にその旨を通知し、依頼者の監督官庁へ通知されます。
場合によっては依頼者の企業名等が公表される可能性もあります。
背景
この制度が運用されるようになったのは、平成19年頃のいわゆる「かんぽの宿売却問題」が背景にあります。
かんぽの宿 売却問題
平成19年12月26日、日本郵政がオリックス不動産にかんぽの宿70施設と9カ所の社宅を109億円で譲渡すると発表しましたが「譲渡額が低すぎる」として当時の鳩山邦夫総務相などが反対して契約は白紙撤回となりました。
その後、国土交通省が不動産鑑定が適正に行われたかについて調査をしました。
その結果、国土交通省は平成23年8月26日に日本郵政(当時)の「かんぽの宿等」の不動産鑑定評価書(平成19年8月31日交付)に不当鑑定があったとして、「不動産の鑑定評価に関する法律」に基づき不動産鑑定士等を処分しました。
具体的な処分内容は次の通りです。
処分された者 | 処分内容 |
---|---|
不動産鑑定士4名 | 懲戒処分 |
不動産鑑定士13名 | 行政処分 |
不動産鑑定業者1社 | 監督処分 |
処分理由の一つに「ドラフト提出後に依頼者とのやりとりにより、鑑定評価の内容を大幅に変更したこと」があげられています。
調査では、依頼者側による不適切な対応(プレッシャー)があったことがあきらかにされています。
それらを踏まえ、国土交通省から連合会に「依頼者プレッシャー」への対策を講じるように通知がされ「依頼者プレッシャー通報制度」が適用されるようになりました。
依頼者様の立場から
たとえば次のような依頼ケースを想定してみます。
【依頼ケース】
・依頼者様:賃貸不動産の借主
・依頼目的:根拠のある家賃の減額交渉をしたい
・現行賃料:20万円/月
・依頼者様内心:「なるべく低い評価額が出てほしいなぁ」

【鑑定評価の結果】
・適正賃料:30万円/月
非常に極端なケースですが、上記のような鑑定評価の結果が出てしまったら依頼者様(借主)は家賃減額交渉の材料として使うことができません。
目的を全く果たせないのに数十万のコストだけが発生してしまうわけで、このような場面で「プレッシャー」が発生してしまうのではないかと思います。
このような事態を避けるために、依頼前に少なくとも「依頼目的」をはっきりと伝えることが非常に重要になります。
まとめ
不動産鑑定士には高度の倫理が求められています。
依頼者様に圧力をかけられたからと言って、不当な評価をしてしまえば、鑑定士個人の信用を失い、懲戒処分、ひどければ資格を失い、さらには鑑定評価制度全体の信頼性を失ってしまいます。
これは依頼者様にとっても同じで、圧力をかけて不当鑑定となってしまったら、評価書は何の意味もなさず、所属企業の品位や信用を著しく傷つけることになってしまいます。
もしも、鑑定評価が必要な場合には、不動産鑑定士にプレッシャーをかけるのではなく、事情を打ち明けてご相談してみてください。
親身になって相談に乗ってくれるはずです。
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