地価公示から一体還元利回りを求める方法

平成31年に地価公示の鑑定評価書が公開されるようになり、これまでなかなか得ることができなかった情報が簡単に得られるようになりました。

そのうちの1つとして今回は、地価公示の鑑定評価書から土地建物一体の還元利回り(以下、一体還元利回り)を求める方法をご紹介します。

還元利回りとは?

価格等調査

還元利回りとは、収益還元法を適用する際に使用される率で、一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求めるために使用される率のことです。

以下、鑑定評価基準の文章を引用します。

還元利回りは、直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである。

不動産鑑定評価基準 総論第7章

収益還元法の式は【純収益÷還元利回り=収益価格】で表されますので、還元利回りを適切に求めることが非常に重要になります。

還元利回りの求め方

鑑定評価

還元利回りの求め方は、もちろん鑑定評価基準に記載されているのですが、必ずしも具体的なものではなく、解釈や意見が入り込む余地がおおいにあります。

その結果、還元利回りの査定は非常に難しく、かつ、奥が深い論点となっています。

私が大学生の時に受けた不動産ファイナンス講座の講師は次のように言っていました。

「還元利回り(または割引率)が解けたという不動産鑑定士は神様か詐欺師」

(還元利回りには将来予測が含まれるため唯一絶対の答えを求めることは不可能という意味です)

つまり還元利回り査定に当たっては、調査分析によっていかに根拠と説得力を積上げられるかがポイントとなります。

そこで説得力がある還元利回りを求めるための1つの手段として地価公示の還元利回りを活用する方法をご紹介します。

地価公示の鑑定評価書

鑑定評価書

国土交通省が一般の土地価格指標を与えるために行う「地価公示」は標準地と呼ばれる全国約26,000地点の土地価格を不動産鑑定士が求めるもので、平成31年から地価公示に係る鑑定評価書が公表されるようになりました。

地価公示は土地の取引指標となることを目的としており、国が行っている地価調査のため、信頼性が高いとされています。
(不動産鑑定士が鑑定評価をする場合も公示価格を規準としなければなりません)

そこで地価公示(の鑑定評価書)を使って一体還元利回りを求めることができれば、それなりに信頼性のある指標となるのではないかというわけです。

地価公示から一体還元利回りを求める方法

理論的には次の式により一体還元利回りが求められます。

計算式
純収益÷(土地価格建物価格)=一体還元利回り

まず、求めたい不動産に類似する地価公示の鑑定評価書を検索します。(→国土交通省地価公示・都道府県地価調査)

次に、以下の手順で一体還元利回りを求めます。

具体的な手順

土地価格

鑑定評価書から【土地に帰属する純収益】と【還元利回り】の数値を抜き出します。

次に【土地に帰属する純収益】÷【還元利回り】を電卓等で計算します。

この計算結果が【土地価格】となります。

STEP
1

建物価格

鑑定評価書から【建物等の初期投資額】の数値を抜き出します。

※【建物等の初期投資額】がそのまま【建物価格】となります。

STEP
2

純収益

鑑定評価書から【純収益】の数値を抜き出します。

※この数値がそのまま【純収益】となります。

STEP
3

一体還元利回り

上記によって求めた数値を下記の式に当てはめます。

純収益÷(土地価格+建物価格)=一体還元利回り

STEP
4

以上により地価公示の鑑定評価書から一体還元利回りが導出されます。

まとめ

不動産には個別性という特性(地型・立地等)があるため、この方法により求めた一体還元利回りをそのまま対象不動産に適用することは不適当です。

(ただし、回帰式によって個別不動産の一体還元利回りを求めることはある程度有用であると考えます)

また、地価公示の標準値は全国に約26,000地点ありますので、全国的に一体還元利回りの指標を容易に手に入れられることは非常に大きなメリットとなります。

今回は少し小難しくなってしまいましたが、「還元利回り(または割引率)が解けたという不動産鑑定士は神様か詐欺師」と言われた日からずっと考え続けている内容をコラムにしてみました。

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