底地の評価 不動産鑑定vs税務評価

底地の評価 鑑定評価vs税務評価
不動産の適正な価格等については「不動産鑑定評価基準」というルールに則って不動産鑑定士が評価することが認められています。(以下、鑑定評価)
一方で、相続税や贈与税の課税にあたっては「財産評価基本通達」というルールに則って不動産を評価するのが原則です。(以下、税務評価)
例えるのであれば、鑑定評価は、個々の不動産について綿密に調査を行い価格形成要因を分析して評価を行うオーダーメイド型(特注品)であるのに対して、税務評価は「税負担の公平・徴税費用の削減・納税者の便宜」という観点から定めた全国一律の評価方法であるレディメイド型(既製品)であるといえます。
今回は訴訟で鑑定評価と税務評価が争われた事例をご紹介しますが、まずは前提知識をご説明します。
底地とは?

底地とは宅地について借地権の付着している土地の所有権をいいます。
税務評価においては「貸宅地」と呼ばれます。
(言い換えれば、他人に貸している土地の事です)
底地は一般市場で売買されることが少なく、取引されるとしても借地人との間での売買がほとんどになります。(これを当事者間売買と呼びます)
一方で、借地人以外の買主が底地を買う場合もまれにあります。(これを第三者間売買と呼びます)
底地は第三者間売買よりも当事者間売買の方が高く売れるのが通常です。
底地の特徴
底地は先ほどの図の通り、借地権とあわせて更地を構成します。

つまり権利面から見ると、
借地権+底地=更地
という式が成立します。
では価格面から見るとどうでしょうか?

借地権価格+底地価格=更地価格
という式は成立しません。
借地権価格+底地価格<更地価格
となります。
なぜなら借地権や底地は、単独では市場性が劣り、価値が下落するからです。
その結果、借地間価格と底地価格の合計は更地価格よりも安くなります。
底地評価の違い
底地の評価方法は、鑑定評価と税務評価で異なります。
鑑定評価は、実際の市場価値を求めるための手法です。
(簡単に言うと、どれくらい収益が得られるのか?どれくらいで取引がされているのか?という観点から価格にアプローチします)
また、当事者間売買の場合と第三者間売買の場合では異なる価格が存在します。
一方、税務評価では更地の価格から借地権の価格を引いた価格を底地価格としています。
この計算式によって求められる価格は常に当事者間取引の場合の価格水準になります。(=第三者間取引よりも高い価格)
したがって、底地価格が過大に算出されてしまいます。
とはいえ「税負担の公平・徴税費用の削減・納税者の便宜」という税務評価の趣旨から考えると仕方ないという面もあります。
訴訟の概要
以上を前提に、底地の評価について争われた次の訴訟をご紹介します。
(わかりやすさを最優先しています。細かい内容・表現は大幅に簡略化していますことをあらかじめご了承ください)
東京高等裁判所
相続税更正処分等取消請求控訴事件
経緯
・相続発生
・相続人が底地を相続
・納税者(=相続人)が税務評価ではなく、鑑定評価を使って相続税申告
・税務署長が鑑定評価を否認して過少申告として更正処分
・納税者が処分の取消を求めて訴訟に財産評価基本通達による価格(税務評価)
・1億7千万円各主張価格(鑑定評価)
・納税者:1億2千万円
・税務署:2億円
・裁判所:1億8千万円結果
納税者の敗訴
訴訟の内容
裁判所は納税者の主張をほぼ全面的に退けました。
納税者の主張
- 借地権価格+底地価格=更地価格という計算式は成り立たない
- 底地は底地買い上げ業者の取引によると、更地価格の10~15%程
- 当該底地が更地に復帰する可能性が低いから収益重視で価格が形成されるべき
裁判所の判断
- 借地権価格+底地価格が更地価格とならないと、課税対象とならない部分ができてしまう
- 一般的な市場は存在しないので納税者主張の証拠がない
- 更地復帰する可能性がある以上、更地復帰の可能性も考えるべき
まとめ
今回は敢えて、鑑定評価額が退けられたケースをご紹介しました。
不動産業界では、借地権価格と底地価格の合計が更地価格に及ばないことは常識ですが、裁判所には認められませんでした。
「税負担の公平・徴税費用の削減・納税者の便宜」のために、全国一律の評価方法である税務評価は有意であるとは思いますが、他方で、借地権や底地については個別性が強く、現行の更地-借地権での評価を強制することは不適当であると思われます。
税務評価の底地の評価方法については納税者が不利とならないように今後の検討が望まれます。
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