損失補償基準と鑑定評価基準

本コラムは不動産鑑定について広く知って頂くために、わかりやすさを重視しております。
一部正確性に欠ける部分がありますので、実際案件でお困りの際は不動産鑑定士等にご相談ください。
損失補償基準とは?

国や地方公共団体が、公共事業等のために民間の土地等を取得したり使用したりする場合に発生する損失を補償するための基準です。
正式には「公共用地の取得に伴う損失補償基準」(以下、損失補償基準)と言いますが、「用地対策連絡協議会」が決定しているものであることから「用対連基準(ようたいれんきじゅん)」と呼ばれることも多いです。
損失補償基準の目的は、事業に必要な土地等の取得又は土地等の使用に伴う損失の補償の基準を定め、もって①事業の円滑な遂行と②損失の適正な補償の確保を図ることとされています。
鑑定評価基準と損失補償基準
鑑定評価基準 | 損失補償基準 | |
---|---|---|
制定 | 昭和39年3月 | 昭和37年10月 |
制定経緯 | 宅地制度審議会が建設大臣に答申 | 中央用地対策連絡協議会が理事会決定 |
目的 | 不動産の経済価値を求める | 公平の見地からの補償 |
性格 | 対価補償の考え方と軌を一にする | 通損補償 (通常生ずる損失の補償) |
類似点 | 借家権の鑑定評価手法のうち 「賃料差額法」 | ≒「借家人に対する補償」 (第34条) |
区分地上権の鑑定評価手法のうち 「立体利用率により求めた価格」 | ≒「空間又は地下の使用に係る補償」 (第25条) |
鑑定評価基準は損失補償基準の約1年半後に制定されているので、損失補償基準の方が歴史が古いということになります。
その性格を一言で言ってしまえば「価格・対価を求めるための鑑定評価基準」と「損失・費用補償を求めるための損失補償基準」という感じでしょうか。
両基準の違い
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土地の評価方法の違いは?
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土地価格の査定においては、手法の優劣が異なります。
損失補償基準⇒比準価格を基準として収益価格を参考
鑑定評価基準⇒比準価格と収益価格を関連付けて決定
損失補償基準
損失補償基準では、第9条に土地の評価について記載があり、これによると比準価格を基準として、収益価格を参考にするものと記載があります。
(詳細な方法は土地評価事務処理要領に記載があるものの、小難しいので割愛させて頂きます)
第9条 前条の正常な取引価格は、近傍類地(近傍地及び類地を含む。以下同じ。)の取引価格を基準とし、これらの土地及び取得する土地について、次の各号に掲げる土地価格形成上の諸要素を総合的に比較考量して算定するものとする。
公共用地の取得に伴う損失補償基準3 地代、小作料、借賃等の収益を資本還元した額、土地所有者が当該土地を取得するために支払った金額及び改良又は保全のために投じた金額並びに課税の場合の評価額は、第1項の規定により正常な取引価格を定める場合において、参考となるものとする。
公共用地の取得に伴う損失補償基準鑑定評価基準
不動産鑑定評価基準では各論第1章に更地の鑑定評価について記載があり、基準によると、比準価格と収益価格を関連付けて決定するものとされています。
更地の鑑定評価額は、更地並びに配分法が適用できる場合における建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法による収益価格を関連づけて決定するものとする。再調達原価が把握できる場合には、積算価格をも関連づけて決定すべきである。
不動産鑑定評価基準各論第1章
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底地の評価方法の違いは?
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底地の評価においては、根本的な考え方が異なります。
損失補償基準⇒【更地価格-借地権価格=底地価格】(=控除主義)
鑑定評価基準⇒【更地価格-借地権価格≠底地価格】(控除主義を否定し、当事者間取引の場合と第三者間取引の場合で区別)
損失補償基準
損失補償基準では、土地の価格から権利(=借地権等)の価格を控除した額を補償すると記載があります。
第10条 土地に関する所有権以外の権利の目的となっている土地に対しては、当該権利がないものとして前3条の規定により算定した額から次節の規定により算定した当該権利の価格を控除した額をもって補償するものとする。
公共用地の取得に伴う損失補償基準鑑定評価基準
不動産鑑定評価基準では各論第1章に底地の鑑定評価について記載があり、基準によると、収益価格と比準価格を関連付けて決定するものとされています。
また、底地を借地権者が買い取る場合には限定価格となる可能性がある旨規定がされています。
底地の鑑定評価額は、実際支払賃料に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより得た収益価格及び比準価格を関連づけて決定するものとする。
不動産鑑定評価基準各論第1章
まとめ
損失補償基準は、官が民の損失を補償するための基準ですが、例えば民間同士の立退料交渉の場面などでも参考にされます。
(民間同士の場合は損失補償基準を使う義務はないわけですが、他に明確な基準がないことから実務上使われます)
余談ですが、「損失補償基準」は不動産鑑定士試験では全く触れられませんので、自発的に学んでいかなければ業務ができません。
(試験科目ではないのに重要という意味で言うと、税法・財産評価基本通達・統計・価格等調査ガイドライン・実務指針についても同様だと感じます)
頭に入れることが多く非常に大変ですが、裏を返せば不動産鑑定士という仕事は一生学ぶことができ、常に成長することが可能な仕事だと感じます。
不動産鑑定士

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