本鑑定の前の概算査定について

不動産の鑑定評価を依頼しようとするとき、鑑定評価額が「目的を達成できるかどうか」が気になるかと思います。
たとえば賃貸不動産オーナーの依頼者様が借主様に対して賃料増額請求をするための根拠として鑑定評価を依頼した場合を想定してみます。
鑑定評価の結果、鑑定評価額が現行賃料よりも低ければ依頼者様の本来の目的である賃料増額請求が叶わず鑑定評価書の意味がなくなってしまいます。
そしてこのような場合でも、鑑定評価報酬は発生してしまいます。
(不動産鑑定士も調査分析に時間とコストをかけていますのでこればかりは仕方ありません)
そこで、本鑑定の前に「概算査定」(多くの場合無料または安価)を行って、その結果をみて本鑑定に進むか否かを判断するという方法があります。
今回は、この「概算査定」についてご紹介します。
概算査定とは?
不動産鑑定業者によってその内容は異なるかと思いますが、役所調査や現地調査を行わず、机上のみで行う査定のことをこのコラムでは「概算査定」と呼びます。
土地であれば、公的指標(地価公示、都道府県地価調査、相続税路線価、固定資産税路線価)等を用いて大まかな価格水準を求め、建物であれば、法定耐用年数を使って大まかな減価額を求めたりします。
上記程度の作業であれば、登記情報さえあればすぐにできることから、無料または安価で実施することが可能です。
概算査定を行う際に注意すべきポイント(鑑定業者側)

ただし、不動産鑑定業者が「概算査定」を行う場合には注意すべきポイントがあります。
注意すべきポイント① 国土交通省が定める「価格等調査ガイドライン」
「価格等調査ガイドライン」とは不動産鑑定業者が遵守しなければならない指針のことです。(違反は処分の対象)
もし「概算査定」が「価格等調査ガイドライン」の適用範囲に該当してしまうと、ガイドラインの規定に則らなければなりません。
このように「価格等を文書等に表示」してしまうと概算査定もガイドライン適用となります。
ガイドラインに則る場合、かなりの工数が発生してしまいますので、どうしても費用と時間が必要になります。
注意すべきポイント② 依頼者様による概算査定の悪用の恐れ
もう一つは概算査定が本来の目的ではないことに使われてしまう可能性です。
令和4年、ある会社が概算査定を複数の鑑定業者に依頼してその中で最も都合の良い鑑定業者を選び、鑑定報酬も低額になるように交渉して行政処分を受けました。(このケースではさらに鑑定評価額への不適切な働きかけや利益相反もありましたので行政処分にまで至りました)
また、上記ケースとは少し異なりますが、概算査定の結果をさも鑑定評価額のように装って利用するようなリスクも排除しきれません。
このように概算査定の結果を悪用されるようなことがあっては、不動産鑑定制度の信頼性にもつながる重大な問題となりかねます。
実務上の対応

以上のことを踏まえ「概算査定」を行う場合には次のいずれかの対応が考えられます。
①価格等調査ガイドラインに則って概算査定をする。
⇒正攻法ですが、時間と費用が掛かります。
②概算調査の結果を口頭で報告する。
⇒文書等に残らないので悪用リスクは軽減されます。
概算査定は本当に必要?その精度は?

色々と書いてきましたが、そもそも概算査定が必ず必要かというとそんなことはありません。
ご相談の段階で、よほど複雑な案件でない限りは概算査定が必要になることは少ないように感じています。
また、概算査定はあくまで概算ですので、その精度はグラグラと言わざるを得ません。
(役所調査や現地調査なくして有意な評価額を出すことは本当に困難なのです)
まとめ
しっかりとした鑑定評価をするためには費用と時間と知識がどうしても必要です。
概算査定は鑑定評価の手順をすっとばして行うので、無料または安価でスピーディーにできますが、その精度は前述したとおりとなります。
とは言いましても、多様な依頼背景によるお客様ニーズがあり、また、概算査定が有効な場合もあります。
実際案件でお困りの際は、概算査定実施の有無も踏まえて信頼できる不動産鑑定士にご相談してみてください。
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