正本と副本

正本・副本とは
不動産鑑定を依頼すると、その成果物として不動産鑑定評価書が発行されますが、通常、正本1部、副本〇部という形で複数部納品がされます。
今回はこの正本と副本についてのコラムです。
まずは定義ですが、辞書を見ると次のように記載されています。
【正本】-せいほん -しょうほん
1.(写本・副本に対して)原本
2.書き写し本の、もとになった本。
【副本】-ふくほん
1.正本の写し。特に、正本の予備または事務整理のため、正本の記載通りに写し取った文書
正本と副本の意味は上記の通りですが、コピー機のない時代には正本と副本がどのように作成されていたのでしょうか。
鑑定評価制度の制定当時の話をご紹介します。
不動産鑑定評価書(正本・副本)の歴史
「不動産鑑定士50年の歩み(日本不動産鑑定士協会連合会発行)」によると、昭和39年頃は手書きの不動産鑑定評価書が多かったようです。
(想像するだけで大変です。。)
その後、不動産鑑定業者がタイピストに依頼してタイプ製本にすることが一般的になったそうです。
※タイプ製本は、カーボン紙を挟んで複数枚を手打複写するもので、基本的に4枚複写であり、完成した4冊のうち、1冊は正本、2冊が副本、1冊が不動産鑑定業者の控えとして扱われました。
さらにその後、コピー機が普及してからはコピーにより副本を作成し、現在では正本も副本もデータから印刷する方法が主流かと思います。
法律上・実務上の取扱い
「不動産の鑑定評価に関する法律」には不動産鑑定業者が鑑定評価書を交付しなければならない旨が定められていますが、正本と副本に係る規定は一切ありません。
また、「不動産鑑定評価基準」にもこれらの規定はありません。
実務上、正本には正印、副本には副印を押印して区別しているケースが多いように思われます。
副本に署名義務はある?

法律上、不動産鑑定士には鑑定評価書への署名義務が定められています。
鑑定評価書には、その不動産の鑑定評価に関与した不動産鑑定士がその資格を表示して署名しなければならない。
不動産の鑑定評価に関する法律 第39条2項
※署名
署名とは自署のことを言いますが、電子署名もこの署名に含まれると解されています。
では、副本にも署名義務はあるのでしょうか。
調べたところ「不動産の鑑定評価に関する法律」及び「不動産鑑定士協会連合会の指針等」には副本への署名義務は定められていません。
「不動産鑑定士協会連合会の業務指針に関するQ&A」にもその旨の記載がありましたので、少なくとも正本に署名があれば現行制度上、問題はないと思われます。
副本の部数は?
副本の基本部数は鑑定業者によって異なりますが、1部~2部くらいが標準的な部数ではないかと思います。
関係者が多ければ多いほど、不動産鑑定評価書の部数が必要になります。
私が担当した案件での過去最多は正本1部・副本4部でしたが、重量的にかなり重くなってしまいました。

もちろんそれよりも多くの部数が必要な場合には、伝えれば対応してくれるはずですので伝えてみてください。
電子署名と正本・副本

近年ではペーパレス化の進展により電子署名付きの鑑定評価書もじわじわと増えてきています。
電子署名付きの鑑定評価書の場合、正本と副本の取扱いが分かりにくいですので、具体例でご紹介します。
種類 | 正本・副本の扱い |
---|---|
電子署名付き鑑定評価書(PDF) | 正本 |
電子署名付き鑑定評価書(PDF)をコピーしたファイル(PDF) | 正本 |
電子署名付き鑑定評価書を印刷(紙) | (副本) |
上記のように電子署名された鑑定評価書(PDF)自体が正本となりますので、そのファイルをコピー(PDF)してもそれは正本となります。
ただし、PDFを紙に印刷した場合には副本と言われるものに相当します。
まとめ
正本と副本は不動産鑑定評価制度が始まった当時から作成されてきたものですが、「手書き」⇒「タイプ」⇒「コピー」⇒「データ」と技術の向上に伴ってその作成方法も変化してきました。
この先、電子署名付の鑑定評価書が主流になれば、正本と副本という概念自体が不要になります。
近年デジタル活用やDXが急速に推し進められていますので、そう遠くない未来には実現するかもしれません。
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