相続税法22条と不動産鑑定評価基準の『時価概念』の違いについて

『相続税の不動産評価』と『不動産鑑定評価』の違い
不動産の評価額は全て同じと思っている方がいらっしゃいますが、「相続税における不動産評価」と「不動産鑑定評価額」は全く異なるものです。
- 相続税における不動産評価
- 財産評価基本通達によって具体的な計算方法が定められています。
相続税・贈与税の課税を目的として、画一的に評価するための価格です。
比較的簡易に求めることができる反面、不動産の個別性により評価額が実勢価格と離れてしまうこともあります。
- 不動産鑑定評価額
- 国土交通省が定める不動産鑑定評価基準に則って評価する価格です。
不動産の適正な経済価値を算出することが目的です。
不動産の鑑定評価をすることができるのは不動産鑑定士のみです。
今回はそれぞれの時価が一体どのように違うのかをご説明します。
相続税法22条の『時価』
第22条 この章で特別の定めがあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。
相続税法 第3章
このように相続税法では「取得の時における時価」とだけ規定されています。
財産評価基本通達には「時価の意義」が規定されており、判決等では時価の解釈が出ておりますので全体像をご紹介します。
相続税法の規定
「取得の時における時価」と規定されています。
財産評価基本通達の規定
「時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」とされています。
判決等での「時価」解釈
「財産の時価は客観的交換価値である」と解釈されており、客観的交換価値といえるためには次の要件が必要と考えられています。
①不特定多数の存在
②その当事者間で自由な取引が行われること
③通常成立すると認められる価格であること
不動産鑑定評価基準の時価
不動産鑑定評価基準には正常価格概念があります。
1.正常価格
不動産鑑定評価基準第5章
正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。この場合において、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場とは、以下の条件を満たす市場をいう。
(1)市場参加者が自由意思に基づいて市場に参加し、参入、退出が自由であること。なお、ここでいう市場参加者は、自己の利益を最大化するため次のような要件を満たすとともに、慎重かつ賢明に予測し、行動するものとする。
① 売り急ぎ、買い進み等をもたらす特別な動機のないこと。
② 対象不動産及び対象不動産が属する市場について取引を成立させるために必要となる通常の知識や情報を得ていること。
③ 取引を成立させるために通常必要と認められる労力、費用を費やしていること。
④ 対象不動産の最有効使用を前提とした価値判断を行うこと。
⑤ 買主が通常の資金調達能力を有していること。
(2)取引形態が、市場参加者が制約されたり、売り急ぎ、買い進み等を誘引したりするような特別なものではないこと。
(3)対象不動産が相当の期間市場に公開されていること。
両者の違い
鑑定評価基準と相続税法の時価解釈を比較すると鑑定評価基準の方が詳細に定められています。
その中で特に重要な違いが「対象不動産の最有効使用を前提とした価値判断を行うこと」です。
不動産鑑定評価の最も重要な概念の1つに最有効使用の原則があります。
Ⅳ 最有効使用の原則
不動産鑑定評価基準第4章
不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(以下「最有効使用」という。)を前提として把握される価格を標準として形成される。
この場合の最有効使用は、現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づくものである。
なお、ある不動産についての現実の使用方法は、必ずしも最有効使用に基づいているものではなく、不合理な又は個人的な事情による使用方法のために、当該不動産が十分な効用を発揮していない場合があることに留意すべきである。
判決等でいう「客観的交換価値」にはこの最有効使用の前提が踏まえられていない点があり、この点で両者は大きく異なると考えられます。
具体的にどのような場面で問題がある?
相続税評価絡みでは数々の判決等が出ていますが、個人的に問題があると思われるのが、底地の評価です。
(あくまで一不動産鑑定士としての意見です)
「底地」は借地権の付着している宅地の所有権の事を言います。
財産評価基本通達では「貸宅地」と呼ばれ、次の式で計算されます。
自用地評価額×(1-借地権割合)
しかしこの式では、底地がどうしても過大に評価されてしまいます。
詳細は長くなってしまいますので、別のコラムで御紹介させて頂きます。
不動産鑑定士

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