相続税申告に不動産鑑定評価が使える場面は?財産評価基本通達6項について

相続税申告と不動産鑑定
相続税申告においては、不動産は「財産評価基本通達」というルールで評価されるのが原則です。
しかし「財産評価基本通達」は法律ではなく、また、財産評価基本通達の6項に次の規定があります。
この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。
財産評価基本通達 6項
以上の事から、「財産評価基本通達」以外の方法である「不動産鑑定評価額」で評価したとしてもそれが直ちに違法になるわけではありません。
そして実際に次のようなことが起きています。
①納税者:不動産鑑定評価額の方が低いので、不動産鑑定評価額をもとに評価を行う。
②課税庁:財産評価基本通達による価額が低いので、不動産鑑定評価額をもとに評価を行う。
①はわかりますが、②は少し驚きです。
国税庁自身が定めた評価通達を使わずに不動産鑑定評価等を用いることになるからです。
(この話は別コラムで御紹介します)
今回は「どのような場合に不動産鑑定評価等で相続税申告をすることができるのか」について整理します。
裁判例のポイント
数々の裁判例をまとめると、大まかに次の4点がポイントになります。
- 時価とは「客観的交換価値」をいう
- 評価通達による評価は、その評価方法が合理性を有し「相続税法22条にいう時価を超えない限り適法」である
- 納税者間の公平等の見地から「原則として全ての納税者との関係で評価通達による評価を行う必要がある」こと
- 例外的に「評価通達によらないことが正当と認められる特別の事情がある場合には、別の合理的な評価方法によることが許される」こと
ここまでのポイント
相続税法における不動産の評価方法は基本的には評価通達を使います。
ただし、特別の事情がある場合には不動産鑑定評価額等の評価方法によることができます。
特別の事情とは
「特別の事情」があれば不動産鑑定評価額が許されるのであれば当然「特別の事情」とはなにかが問題となります。
結論から述べますと現時点では「特別の事情」の意義は示されていません。
言い換えれば「どういう場合であれば不動産鑑定評価を用いて申告をしていいのか」ハッキリとしていないということになります。
ただし、各裁判例で「特別の事情」があると認める場合には概ね次のように説明しています。
評価通達による評価方法を形式的に適用すると「実質的な租税負担の公平を著しく害する」場合(→特別の事情あり)
特別の事情の類型
特別の事情をさらに分解するとすると2つの類型に分かれます。
①価格乖離型
評価通達による価格と不動産鑑定評価等による価格が大きく離れているタイプです。
例:対象土地が両隣の宅地と比べて著しく不整形であり、評価通達による価格よりも時価の方が著しく低額である場合
②租税回避型
意図的に相続税負担を軽減させることを目的としているタイプです。
例:タワーマンションの「評価通達による価格」と「時価」に大きな差額があることに目をつけた相続人が、相続開始直前に被相続人名義でタワーマンションを購入し、被相続人が亡くなった後にすぐに売却した場合
②租税回避型に対しては「特別の事情」を認めないケースが多いです。
6項適用の判断基準
以上のことから相続税申告で不動産鑑定評価等を使うためには次の点に注意する必要があります。
- 評価通達による評価を形式的に適用することの合理性が欠如していること
- 他の合理的な時価の評価方法が存在すること
- 「評価通達による価額」と「他の合理的な評価方法による価額」の間に著しい乖離が存在すること
- 納税者の行為が存在し、当該行為と「価額の間に著しい乖離が存在すること」との間に関連があること
結論
このように相続税申告において不動産鑑定評価を活用するにはリスクも存在します。
ただし、不動産鑑定評価がすべて認められていないわけでは決してありませんので、上記の判断基準に照らして上手に活用することが必要になります。
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