還元利回り

還元利回りの意義

還元利回りは、直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである。

不動産鑑定評価基準 総論第7章Ⅳ3

還元利回りの求め方

還元利回りは、市場の実勢を反映した利回りとして求める必要があり、還元対象となる純収益の変動予測を含むものであることから、それらの予測を的確に行い、還元利回りに反映させる必要がある。
還元利回りを求める方法を例示すれば次のとおりであるが、適用に当たっては、次の方法から一つの方法を採用する場合又は複数の方法を組み合わせて採用する場合がある。

不動産鑑定評価基準運用上の留意事項
  • 類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
  • 借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法
  • 土地と建物に係る還元利回りから求める方法
  • 割引率との関係から求める方法
  • 借入金償還余裕率の活用による方法
  • 投資家の意見等による方法
  • (基準外)金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法

①類似の不動産の取引事例との比較から求める方法

類似の不動産

(ア)類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
この方法は、対象不動産と類似の不動産の取引事例から求められる利回りをもとに、取引時点及び取引事情並びに地域要因及び個別的要因の違いに応じた補正を行うことにより求めるものである。
取引事例から得られる利回り(以下「取引利回り」という。)については、償却前後のいずれの純収益に対応するものであるかに留意する必要がある。
あわせて純収益について特殊な要因(新築、建替え直後で稼働率が不安定である等)があり、適切に補正ができない取引事例は採用すべきでないことに留意する必要がある。
この方法は、対象不動産と類似性の高い取引事例に係る取引利回りが豊富に収集可能な場合には特に有効である。

不動産鑑定評価基準 総論第7章Ⅳ3+運用上の留意事項

この方法は、類似の取引事例の利回りを元に、各種補修正を行って対象不動産に係る還元利回りにアプローチする手法です。

②借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法

借入金と自己資金

(イ)借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法
この方法は、対象不動産の取得の際の資金調達上の構成要素(借入金及び自己資金)に係る各還元利回りを各々の構成割合により加重平均して求めるものである。
この方法は、不動産の取得に際し標準的な資金調達能力を有する需要者の資金調達の要素に着目した方法であり、不動産投資に係る利回り及び資金調達に際する金融市場の動向を反映させることに優れている。
上記による求め方は基本的に次の式により表される。

R=RM×WM+RE×WE
R:還元利回り
RM:借入金還元利回り
WM:借入金割合
RE:自己資金還元利回り
WE:自己資金割合

不動産鑑定評価基準 総論第7章Ⅳ3+運用上の留意事項

③土地と建物に係る還元利回りから求める方法

一体不動産

(ウ)土地と建物に係る還元利回りから求める方法
この方法は、対象不動産が建物及びその敷地である場合に、その物理的な構成要素(土地及び建物)に係る各還元利回りを各々の価格の構成割合により加重平均して求めるものである。
この方法は、対象不動産が土地及び建物等により構成されている場合に、土地及び建物等に係る利回りが異なるものとして把握される市場においてそれらの動向を反映させることに優れている。
上記による求め方は基本的に次の式により表される。

R=RL×WL+RB×WB
R:還元利回り
RL:土地の還元利回り
WL:土地の価格割合
RB:建物等の還元利回り
WB:建物等の価格割合

不動産鑑定評価基準 総論第7章Ⅳ3+運用上の留意事項

④割引率との関係から求める方法

割引率

(エ)割引率との関係から求める方法
この方法は、割引率をもとに対象不動産の純収益の変動率を考慮して求めるものである。
この方法は、純収益が永続的に得られる場合で、かつ純収益が一定の趨勢を有すると想定される場合に有効である。
還元利回りと割引率との関係を表す式の例は、次のように表される。

R=Y-g
R:還元利回り
Y: 割引率
g:純収益の変動率

不動産鑑定評価基準 総論第7章Ⅳ3+運用上の留意事項

⑤借入金償還余裕率の活用による方法

DSCR

(オ)借入金償還余裕率の活用による方法
この方法は、借入金還元利回りと借入金割合をもとに、借入金償還余裕率(ある期間の純収益を同期間の借入金元利返済額で除した値をいう。)を用いて対象不動産に係る純収益からみた借入金償還の安全性を加味して還元利回りを求めるものである。
この場合において用いられる借入金償還余裕率は、借入期間の平均純収益をもとに算定すべきことに留意する必要がある。
この方法は、不動産の購入者の資金調達に着目し、対象不動産から得られる収益のみを借入金の返済原資とする場合に有効である。
上記による求め方は基本的に次の式により表される。

R=RM×WM×DSCR
R:還元利回り
RM:借入金還元利回り
WM:借入金割合
DSCR:借入金償還余裕率(通常は1.0 以上であることが必要。)

不動産鑑定評価基準運用上の留意事項

⑥投資家の意見等よる方法

投資家

また、必要に応じ、投資家等の意見や整備された不動産インデックス等を参考として活用する。

不動産鑑定評価基準運用上の留意事項

⑦(基準外)金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法

DSCR

(ウ)金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法
この方法は、債券等の金融資産の利回りをもとに、対象不動産の投資対象としての危険性、非流動性、管理の困難性、資産としての安全性等の個別性を加味することにより求めるものである。

不動産鑑定評価基準 総論第7章Ⅳ3

この方法は不動産鑑定評価基準において、割引率を求める方法とされており、還元利回りを求める方法には記載がありません。
ただ、実務上この方法を使って還元利回りを求める鑑定士もいますのでご紹介します。

不動産鑑定評価基準に載っていない方法を使うのはマズい?

鑑定評価基準に記載されていないことをすると「鑑定評価基準違反だ」「不当鑑定だ」という方がいらっしゃるそうです。
(幸いなことに私はお会いしたことはありません)

たしかに不動産鑑定評価基準は不動産鑑定士が守らなければならない規範ですが、評価技術の進歩改善を妨げるものでもありません。
したがって、基準にある方法を適用したうえで追加項目として適用するのであれば問題ないと考えます。

不動産鑑定評価基準は制定日から今日まで進歩改善されてきたことを忘れるべきではありません。

還元利回り(R)と割引率(Y)の関係

還元利回りと割引率の関係は、「割引率との関係から求める方法」により、次のように表せます。

「還元利回り(R)=割引率(Y)−純収益の変動率(g)」

この関係から、理論上は次のような結果になります。

純収益の変動予想純収益の変動率の値RとYの関係
変動なし純収益の変動率(g)=0還元利回り(R)=割引率(Y)
上昇予想純収益の変動率(g)>0還元利回り(R)<割引率(Y)
下落予想純収益の変動率(g)<0還元利回り(R)>割引率(Y)

ただし、「理論上は」としているのはこれらの関係が必ずしも成立しないことが原因です。

J-REITのRとYの関係を見るとそのほとんどが、
「還元利回り(R)>割引率(Y)」
となっています。

R>Yということは、純収益の変動率(g)がマイナスということになります。

では、純収益の変動率(g)は本当に常にマイナスなのでしょうか。

実はRとYは、対応する期間が異なります。
R=超長期的な純収益に対応する率
Y=保有期間(10年程度)の純収益に対応する率

このように期間的にみるとYよりもRの不確実性の方が大きくなります。
純収益の変動率(g)がプラスでも、そのプラスよりも大きい不確実性が考慮されると、還元利回り(R)>割引率(Y)が成立し得ます。

還元利回りと割引率の相違

還元利回り割引率
使用される手法直接還元法DCF法
意味純収益と価格の関係を表す割合将来の収益を現在の価値にするための率
対応する純収益の期間一期間保有期間
考慮する要因①将来の収益に影響を与える要因の変動予測
②予測に伴う不確実性
左記の①変動予測と②不確実性のうち、
考慮した期間の純収益と復帰価格に係るものを除く

借地権の還元利回り

還元利回りは借地権の価格を求める手法でも適用されますが、その内容をご紹介します。

借地権価格を求める手法のうち還元利回りを使用する手法は「賃料差額還元法」と「借地権残余法」があります。

賃料差額還元法の還元利回り

借地権の取引事例が多数収集できれば、取引事例を分析することにより賃料差額を還元する利回りを把握することは可能と考えられる。
借り得部分の現在価値の総和(のうち取引の対象となる部分)を求める手法であり、賃料差額を還元する利回りは、年賦償還率となり一般的には次式で表せる。

?(1+?)?/(1+?)?−1

r :期待利回り
? :賃料差額の継続期間

賃料差額についての将来予測(継続性)などを考慮する。土地の正常実質賃料の将来予測と支払地代の増減、将来予測される一時金に対するリスクを検討することとなり、支払地代の変動リスクについては適正な継続地代水準からの乖離の程度や現行地代の直近合意時点などに留意する。

「取引の対象となる部分」については還元利回りに織り込むことも考えられる。
「取引の対象となる部分」の割合は、土地と借地権との還元利回りの差異と密接に関係しているものと考えられる。

研究報告 借地権の鑑定評価に関する論点整理

借地権残余法の還元利回り

借地権の収益価格 = ( a – B × RB ) ÷ RL
a :建物等及びその敷地の償却前の純収益
B :建物等の価格
RB :償却前の純収益に対応する建物等の還元利回り
RL 借地権の還元利回り

借地権の還元利回りは、土地の還元利回りに借地権特有のリスクを加味することによって説明することができる。

土地の基本利率(r)は、期待する利回り、不動産投資におけるリスクの違い等により、商業地及び住宅地の用途によって異なるとともに、地域によっても異なるものと考えられる。

運用指針では、基本利率を商業地及び住宅地の用途ごとに区分するとともに、地域ごとに区分して設定すべきものとされているが、それに加え、借地権の場合は、完全所有権に比べ流動性、安定性が劣ることから、それぞれの土地の基本利率(r)に対応する借地権の利率(r')は土地のそれよりも高くなる傾向にある。

また、市場性の観点からは、借地権の取引慣行の成熟の程度が低い地域ほど(r’)は高くなる傾向にあるとともに、地上権と賃借権等借地権の態様の違いも(r’)に影響を与える要因となる。借地権の還元利回りは、借地権に帰属する純収益に対応しているので、借地権に帰属する純収益の将来リスクを反映したものとなる。

借地権固有の将来リスクには、地代の増減、一時金の支払い、借地権そのものの継続性等に係るものが考えられるが、これは、(r’)もしくは (g’)において反映させることになる 。

研究報告 借地権の鑑定評価に関する論点整理

不動産鑑定のお問い合わせ

不動産の価格または賃料でお困りの際は下記からお気軽にご相談ください。
当日または翌日中にメールで御連絡をいたします。