このページでは「借家人補償」についてわかりやすさを重視してご紹介しております。実際案件の際には必ず専門家にご相談ください。
また、借家人補償を「借家権価格」として求める考え方もありますが、ここではご紹介をいたしません。

全体像

このページでは上図のうち、「①借家人補償」の内容について、わかりやすくご紹介します。

借家人補償の意義

損失補償基準には次のように規定されています。

第34条
土地等の取得又は土地等の使用に伴い建物の全部又は一部を現に賃借りしている者がある場合において、賃借りを継続することが困難となると認められるときは、その者が新たに当該建物に照応する他の建物の全部又は一部を賃借りするために通常要する費用を補償するものとする。

2 前項の場合において、従前の建物の全部又は一部の賃借料が新たに賃借りする建物について通常支払われる賃借料相当額に比し低額であると認められるときは、賃借りの事情を総合的に考慮して適正に算定した額を補償するものとする。

公共用地の取得に伴う損失補償基準 令和2年1月31日

借家人補償の内容

借家人補償は次の3つの要素によって構成されます。

➀家賃差補償

立退きにより引越さなければならない借家人に対して、「新しく借りる建物の家賃」と「現在の家賃の差額」の一定期間分を補償するという内容です。

②借家人に返還されない一時金の補償

「借家人に返還されない一時金」とは例えば「礼金」や「権利金」と呼ばれるものです。(以下「礼金等」)

礼金等は、新しく建物を借りる場合に発生するものですが、借家人にとっては立退きがなければ支払わなくてよいものですので、礼金等の金額は補償するべきという内容です。

③借家人に返還される一時金の補償

借家人に返還される一時金とは例えば、「敷金」や「保証金」と呼ばれるものです。(以下「敷金等」)

敷金等は、賃貸借契約の終了時に返還されるものですので、新たに必要となる敷金等の金額自体を補償する必要はありません。

補償する必要があるのは「新たに必要となる敷金等から現在預けている敷金等を差し引いた額(以下、敷金差額)」に対する運用益相当額です。

敷金差額については、本来であれば自由に使えたはずですので、「もし敷金差額を自分で資産運用していたら、得られたであろう運用益」を補償するべきという内容です。

➀家賃差補償

家賃差補償は「標準家賃」と「現在家賃」の差額を「補償年数」補償するという内容です。

標準家賃

標準家賃は損失補償基準細則に次のように定められています。

従前の賃借建物に照応する建物の当該地域における新規賃貸事例において標準的と認められる月額賃貸料とする。

公共用地の取得に伴う損失補償基準細則 第18-3

標準家賃の具体的な算定方法には、例えば次のような方法があります。

方式精度
地域の賃貸事例の賃料単価を単純平均して求める方法
現在家賃に時点修正を施して求める方法
不動産鑑定評価基準に則って新規家賃を求める方法

補償年数

補償年数は損失補償基準細則に次のように定められています。

別表第5(家賃差補償年数表)の区分による範囲内で定めるものとする。ただし、建物の全部又は一部を現に賃借りしている者が居住又は使用している期間が、この表の区分による年数を下回る場合は、当該期間(当該期間が1年未満の場合は1年)を年数とみなす。
なお、特段の事情があると認められるときは、各区分の補償年数を1年の範囲内で補正することができるものとする。

公共用地の取得に伴う損失補償基準細則 第18-3
従前の建物との家賃差補償年数
3.0倍超4年
2.0倍超 3.0倍以下3年
2.0倍以下2年
別表5 家賃差補償年数表

従前家賃と標準家賃の家賃差が大きければ大きいほど、補償年数が長く設定されています。

②借家人に返還されない一時金の補償

礼金等の補償については次のように定められています。

標準家賃(月額)×補償月数
補償家賃:(前述の通り)
補償月数:従前の賃借建物に照応する建物の当該地域における新規賃貸事例において標準的と認められる一時金の月数とする。

公共用地の取得に伴う損失補償基準細則 第18-2

補償月数の査定は、地域の賃貸事例における一時金の授受慣行の調査分析を行い求めることになります。

③借家人に返還される一時金の補償

借家人に返還される一時金の補償については次のように定められています

(標準家賃(月額)×補償月数-従前貸主からの返還見込額)× (1+r) n-1 /(1+r) n

r:年利率
n:賃借機関

公共用地の取得に伴う損失補償基準細則 第18-2

標準家賃:前述の通り求めます。

補償月数:前述の通り求めます。

従前貸主からの返還見込額:一時金のうち賃貸借契約上返還されることとなる金額をいいます。
(いわゆる「償却」や「敷引き」がなければ、従前貸主に預けている敷金等と同額になります)

(標準家賃×補償月数-返還見込額) の意味

「標準家賃×補償月数」で地域の標準的な敷金等の金額が求められます。

そこから返還見込額を控除することによって「新たな建物を賃借するために追加で負担しなければならない敷金等の金額(敷金差額)」が求められます。

(1+r) n-1 /(1+r) n の意味

「敷金差額」の全額を補償しなければいけないわけではありません。

繰り返しになりますが、補償すべきは「もし敷金差額を自分で資産運用していたら、得られたであろう運用益」です。

この数式は「敷金差額」が賃借期間の間拘束されてしまい、資産運用機会を逃したものとして、その運用益部分を算出するためのものです。
(細かい話ですが、複利年金現価率×年利率によってこの式が導出されます。)

なお、賃借期間は10年を標準とし、年利率は0.8%とされています。

その他 立退料の構成要素

立退料算定のお見積りはこちら

お気軽にご連絡ください