全体像

まずは価格等調査ガイドラインⅠ総論の全体像をご紹介します。

Ⅰ総論

  • 趣旨
  • 定義
  • 範囲及び鑑定評価基準との関係
  • 基準に則った鑑定評価と則らない価格等調査との区別?ココ
  • 特定の条件を設定した価格等調査

Ⅱ業務の目的と範囲等の確定

Ⅲ業務の目的と範囲等に関する成果報告書への記載

Ⅳ不動産鑑定士が第3条第2項業務を行う場合の準用

今回は、Ⅰ総論のうち基準に則った鑑定評価と則らない価格等調査との区別についてご紹介します。

不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価の取扱い

鑑定評価書

不動産鑑定評価基準は、不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行うに当たっての統一的基準であり、不動産鑑定評価制度の適切な運用に寄与し、もって不動産の適正な価格の形成に資することを目的とするものであることから、不動産鑑定士が不動産の価格等を調査するに当たっては、不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価を行うことを原則とする。

価格等調査ガイドライン Ⅰ総論 4

不動産鑑定士は不動産鑑定評価制度の担い手であり、不動産の適正な価格形成を目的とすることから、不動産鑑定士が価格等調査を行う場合には「不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価」を行うことが原則とされています。

不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査を行うことができる場合

不動産鑑定士が価格等調査を行う場合、鑑定評価基準に則ることが原則とされています。

ただし、依頼者の様々なニーズに対応するために、一定の条件を満たす場合には例外的に「鑑定評価基準に則らない価格等調査」を行うことができます。

(「鑑定評価基準に則らない価格等調査」も価格等調査ガイドラインの適用範囲です。)

価格等調査ガイドラインではこの一定の条件として次のものが列挙されています。

ただし、
①調査価格等が依頼者の内部における使用にとどまる場合、
②公表・開示・提出される場合でも利用者の判断に大きな影響を与えないと判断される場合、
③調査価格等が公表されない場合ですべての開示・提出先の承諾が得られた場合、
④不動産鑑定評価基準に則ることができない場合、又は
⑤その他「Ⅱ.1.依頼目的、利用者の範囲等」等を勘案して不動産鑑定評価基準に則らないことに合理的な理由がある場合
には、不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査を行うことができる。

価格等調査ガイドライン Ⅰ総論 4

本ガイドラインは不動産鑑定士が価格等調査を行う場合には遵守しなければいけませんので、上記①~⑤のいずれかに該当しなければ「調査報告書」や「意見書」等のタイトルでも成果報告書を作成することは許されないと解されます。

①調査価格等が依頼者の内部における使用にとどまる場合

調査価格等の利用者保護のため、依頼者の内部における使用として使われる場合には 「鑑定評価基準に則らない価格等調査」を行うことができます 。

「依頼者の内部における使用」とは、依頼者が企業である場合にその役職員などが売買のために内部での意思決定に使用する、又は、依頼者が金融機関である場合にその役職員などが融資を行うために内部での意思決定に使用する場合などが考えられる。

②公表・開示・提出される場合でも利用者の判断に大きな影響を与えないと判断される場合

公表・開示・提出される場合でも利用者の判断に大きな影響を与えないと判断される場合は「運用上の留意事項」に列挙されていますので、簡単にご紹介します。

  • 資産の流動化に関する法律における特定資産である不動産の評価
  • 投資信託及び投資法人に関する法律における特定資産の鑑定評価
  • 現物出資の価格証明
  • 現物拠出財産の価格証明
  • 法定外証券化スキームにおける不動産の取得時または譲渡時の評価
  • 抵当証券の交付の申請に必要な担保不動産の評価
  • 倒産法における否認要件
  • 標準地における公共用地の取得、公有財産の使用や処分に伴うもの
  • 担保評価
  • 関連会社間に係る適正価格の証明としての評価
  • 訴訟に使用されるための評価
  • 会社更生法・民事再生法における財産評価

なお、公表・開示・提出される場合であって、その調査価格等の大きさ等から利用者の判断に大きな影響を与えると判断される場合は以上の場合に限られないことから、依頼目的、利用者の範囲、調査価格等の大きさ等を勘案して大きな影響を与えないかどうかについて適切に判断することが必要である。

価格等調査ガイドライン 運用上の留意事項

③調査価格等が公表されない場合ですべての開示・提出先の承諾が得られた場合

「鑑定評価基準に則った価格等調査」が原則なのは、利用者保護のためでした。

調査価格等が公表されることなく、かつ、全ての開示先、提出先の承諾が得られた場合には、利用者を害する恐れがなくなることから 「鑑定評価基準に則らない価格等調査」を行うことができます 。

もっとも、鑑定評価基準に則っていないことによる調査価格等への与える影響は慎重に判断する必要があります。

④不動産鑑定評価基準に則ることができない場合

「要説」には3つの要件(1.依頼目的、2.利用者の範囲、3.基準に則ることができない前提条件の範囲)が掲げられていますが、少し細かい話ですので、具体例だけご紹介します。

例えば次のような場合が不動産鑑定評価基準に則ることができない場合として例示されます。

・未竣工建物等鑑定評価の設定要件を満たさない場合
・調査範囲等条件の設定要件を満たさない場合等

⑤その他「依頼目的、利用者の範囲等」等を勘案して不動産鑑定評価基準に則らないことに合理的な理由がある場合

「価格等調査ガイドライン 運用上の留意事項」に具体例が記載されています。

『「Ⅱ.1.依頼目的、利用者の範囲等」等を勘案して不動産鑑定評価基準に則らないことに合理的な理由がある場合』を例示すれば、調査結果が公表・開示・提出され、利用者の判断に影響を与える場合でも、過去に不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価を行ったことがある不動産の再評価を行う場合において、自ら実地調査を行い又は過去に行ったことがあり、当該不動産の物的状況や権利関係及び当該不動産の用途や所在地にかんがみて公示地価その他地価に関する指標や取引価格、賃料、利回り等の価格形成要因について、直近に行った不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価の価格時点と比較して、重要な変化がないと客観的に認められる場合が挙げられる。

価格等調査ガイドライン 運用上の留意事項

読みにくい文章ですので、わかりやすさを重視してリライトすると、

「過去に鑑定評価基準に則った鑑定評価を行ったことがある不動産の再評価の場合で、過去の鑑定評価時点と現在に重要な変化がないと認められる場合」

となります。

まとめ

重要なことですので繰り返しになりますが、

不動産鑑定士が、価格等調査を行う場合には「鑑定評価基準に則った鑑定評価」を行うことが原則となります。

ただし多様な依頼者のニーズを充足するため上記①~⑤のいずれかの要件を満たす場合のみ例外的に「鑑定評価基準に則らない価格等調査」を行うことが認められています。

したがって①~⑤のどれにも当てはまらない場合は、「鑑定評価基準に則らない価格等調査」を行うことはできません。

価格等調査ガイドラインのご紹介

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