対象確定条件

不動産の鑑定評価を行うにあたっては、①対象不動産、②価格時点、③価格又は賃料の種類を確定しなければいけません(鑑定評価の基本的事項)

そしてこれらのうち、「①対象不動産」をどのように確定するのかを判断しなくてはなりません。

この、対象不動産を確定する条件の事を「対象確定条件」と呼びます。

対象確定条件の意義

対象不動産の確定に当たって必要となる鑑定評価の条件を対象確定条件という。
対象確定条件は、鑑定評価の対象とする不動産の所在、範囲等の物的事項及び所有権、賃借権等の対象不動産の権利の態様に関する事項を確定するために必要な条件であり、依頼目的に応じて次のような条件がある。

不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節Ⅰ1

『対象不動産の確定』とは、鑑定評価の対象となる不動産を他の不動産と区別して、特定することです。
そしてそれは依頼目的・条件に照応する対象不動産と現実の利用状況を照合して確認することにより対象不動産を最終的に確定します。

『対象不動産の確定』にあたっては、依頼目的に応じて対象不動産の内容を確定しなければなりません。
そのため評価する対象不動産の条件を設定する必要があります。

~条件設定の必要性~
現況を所与として価格を求めるのみでは、多様な不動産鑑定のニーズに即応することができないため、条件設定の必要性が生じます。
以下、不動産鑑定評価基準に記載されている対象確定条件についてご紹介します。

対象確定条件の種類

  1. 現況所与としての鑑定評価
  2. 独立鑑定評価
  3. 部分鑑定評価
  4. 併合(または分割)鑑定評価
  5. 未竣工建物等鑑定評価
  6. その他の対象確定条件

条件設定は、鑑定評価の妥当する範囲及び鑑定評価を行った不動産鑑定士の責任の範囲を示すという意義を持つものである。

不動産鑑定評価基準運用上の留意事項

現況所与としての鑑定評価

現況所与

不動産が土地のみの場合又は土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その状態を所与として鑑定評価の対象とすること。

不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節Ⅰ1

一番シンプルな対象確定条件です。
更地の評価を求める場合には更地を所与として、土地建物の評価を求めたい場合には、土地建物を所与として鑑定評価の対象とします。

対象確定条件は対象不動産の内容を確定するための条件ですので、このように現況を所与とすることも対象確定条件の1つとなります。

独立鑑定評価

独立鑑定評価

不動産が土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その土地のみを建物等が存しない独立のもの(更地)として鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を独立鑑定評価という。)。

不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節Ⅰ1

独立鑑定評価は、現実には土地建物一体不動産として利用されている場合に、土地が存在しないもの(=更地)とする対象確定条件です。

独立鑑定評価の設定例

対象確定条件(独立鑑定評価)を設定した場合の、鑑定評価書への記載例をご紹介します。

対象確定条件
対象不動産上には建物等が存するが、建物等が存しない更地として鑑定評価を行う。
条件設定の合理的理由
本鑑定評価においては、現実の利用状況と異なる対象確定条件を設定しているが、以下の点から鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれはないものと判断した。
記載例
対象不動産上の建物は取壊しが予定されており、本鑑定評価は取壊し後の価格を求めるためのものであり、鑑定評価書の利用者は依頼者のみであるため。

部分鑑定評価

部分鑑定評価

不動産が土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その状態を所与として、その不動産の構成部分を鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を部分鑑定評価という。)。

不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節Ⅰ1

部分鑑定評価は、土地建物一体として利用されている不動産について、その内訳としての土地または建物を鑑定評価の対象とする対象確定条件です。
独立鑑定評価と少し似ていますが、次の点で異なります。

比較項目独立鑑定評価部分鑑定評価
現況土地建物一体土地建物一体
条件建物が存しないものとして現況を所与として
評価の対象土地(更地)土地(建付地)または建物

併合(または分割)鑑定評価

併合鑑定評価
分割鑑定評価

不動産の併合又は分割を前提として、併合後又は分割後の不動産を単独のものとして鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を併合鑑定評価又は分割鑑定評価という。)。

不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節Ⅰ1

併合鑑定評価とは隣地買収をして一体となった土地の価格を求めたい場合等に、併合後の一体地を鑑定評価の対象とする対象確定条件です。

分割鑑定評価とは一体地を分割した場合の残地価格を求めたい場合等に、分割後の土地を鑑定評価の対象とする対象確定条件です。

併合鑑定評価の設定例

対象確定条件(併合鑑定評価)を設定した場合の、鑑定評価書への記載例をご紹介します。

対象確定条件
対象地Aと対象地Bを併合し、一体の不動産として鑑定評価を行う。
条件設定の合理的理由
本鑑定評価においては、現実の利用状況と異なる対象確定条件を設定しているが、以下の点から鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれはないものと判断した。
記載例
・本鑑定評価は、検討している共同ビル開発事業の参考として一体としての正常価格を求めるものであり、鑑定評価書の利用者は依頼者と隣地所有者のみであるため。

未竣工建物等鑑定評価

未竣工建物等鑑定評価

造成に関する工事が完了していない土地又は建築に係る工事(建物を新築するもののほか、増改築等を含む。)が完了していない建物について、当該工事の完了を前提として鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を未竣工建物等鑑定評価という。)。

不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節Ⅰ1

未竣工建物等鑑定評価は、価格時点において、当該建物等の工事が完了し、その使用収益が可能な状態であることを前提として鑑定評価を行うものであることに留意する。

不動産鑑定評価基準運用上の留意事項

未竣工建物等鑑定評価の設定例

対象確定条件(未竣工建物等鑑定評価)を設定した場合の、鑑定評価書への記載例をご紹介します。

対象確定条件
価格時点現在建築中の建物について、価格時点においてご提示設計図書とおり完成し使用収益が可能な状態であるものとして鑑定評価を行う。
条件設定の合理的理由
本鑑定評価においては、現実の利用状況と異なる対象確定条件を設定しているが、以下の点から鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれはないものと判断した。
記載例
・ご提示の設計図書により、完成後の建物の図面上の確認が可能である。
・発注者への聴聞及び発注者の有価証券報告書の確認により、当該建築工事に係る資金調達及び工事完了の意思に問題はないものと判断される。
・請負業者の類似の工事実績等から施工能力に問題はないものと判断される。
・鑑定評価書の利用者は、依頼者及び対象不動産の購入予定者の取引金融機関のみである。

その他の対象確定条件

なお、上記に掲げるもののほか、対象不動産の権利の態様に関するものとして、価格時点と異なる権利関係を前提として鑑定評価の対象とすることがある。

不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節Ⅰ1

例えば次のような対象確定条件が考えられます。

貸家及びその敷地自用の建物及びその敷地として鑑定評価の対象とする場合
借地権が付着している土地について、借地権が付着していないものとして鑑定評価の対象とする場合

対象確定条件(その他)の設定例

対象確定条件(その他)を設定した場合の、鑑定評価書への記載例をご紹介します。

対象確定条件
対象不動産の敷地と建物の所有者は異なるが、自用の建物及びその敷地として鑑定評価を行う。
条件設定の合理的理由
本鑑定評価においては、現実の利用状況と異なる対象確定条件を設定しているが、以下の点から鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれはないものと判断した。
記載例
・本鑑定評価は担保評価を目的とするもので、対象不動産の敷地及び建物には同順位の抵当権が設定されており、鑑定評価書の利用者は依頼者(債務者)及び抵当権者である金融機関のみであるため。

対象確定条件を設定するための要件

対象確定条件はやみくもに設定できるわけではなく、一定の要件を満たす場合に設定することができます。

未竣工建物等鑑定評価以外の場合

対象確定条件を設定するに当たっては、対象不動産に係る諸事項についての調査及び確認を行った上で、依頼目的に照らして、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないかどうかの観点から当該条件設定の妥当性を確認しなければならない。

不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節Ⅰ2

ここで、『鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがない』というのが重要なキーワードになります。

「鑑定評価書の利用者」とは、依頼者及び提出先等(総論第8章第2節で規定されるものをいう。)のほか、法令等に基づく不動産鑑定士による鑑定評価を踏まえ販売される金融商品の購入者等をいう。

不動産鑑定評価基準運用上の留意事項

対象確定条件を設定する場合において、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがある場合とは、鑑定評価の対象とする不動産の現実の利用状況と異なる対象確定条件を設定した場合に、現実の利用状況との相違が対象不動産の価格に与える影響の程度等について、鑑定評価書の利用者が自ら判断することが困難であると判断される場合をいう。

不動産鑑定評価基準運用上の留意事項

【結論】未竣工建物等鑑定評価以外の設定要件

・『鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないこと』

未竣工建物等鑑定評価の場合

未竣工建物等鑑定評価の場合には、さらに次の要件が必要になります。

なお、未竣工建物等鑑定評価を行う場合は、上記妥当性の検討に加え、価格時点において想定される竣工後の不動産に係る物的確認を行うために必要な設計図書等及び権利の態様の確認を行うための請負契約書等を収集しなければならず、さらに、当該未竣工建物等に係る法令上必要な許認可等が取得され、発注者の資金調達能力等の観点から工事完了の実現性が高いと判断されなければならない。

不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節Ⅰ2

【結論】未竣工建物等鑑定評価の設定要件

・『鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないこと』
・『実現性』
・『合法性』

条件設定の制限

証券化対象不動産(各論第3章第1節において規定するものをいう。)の鑑定評価及び会社法上の現物出資の目的となる不動産の鑑定評価等、鑑定評価が鑑定評価書の利用者の利益に重大な影響を及ぼす可能性がある場合には、原則として、鑑定評価の対象とする不動産の現実の利用状況と異なる対象確定条件、地域要因又は個別的要因についての想定上の条件及び調査範囲等条件の設定をしてはならない。
ただし、証券化対象不動産の鑑定評価で、各論第3章第2節に定める要件を満たす場合には未竣工建物等鑑定評価を行うことができるものとする。

不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節Ⅳ

条件設定に関する依頼者との合意

1.条件設定をする場合、依頼者との間で当該条件設定に係る鑑定評価依頼契約上の合意がなくてはならない。
2.条件設定が妥当ではないと認められる場合には、依頼者に説明の上、妥当な条件に改定しなければならない。

不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節Ⅴ


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