想定上の条件の意義
対象不動産について、依頼目的に応じ対象不動産に係る価格形成要因のうち地域要因又は個別的要因について想定上の条件を設定する場合がある。
不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節Ⅱ
~条件設定の必要性~
現況を所与として価格を求めるのみでは、多様な不動産鑑定のニーズに即応することができないため、条件設定の必要性が生じます。
以下、想定上の条件についてご紹介します。
想定上の条件の具体例
この場合には、設定する想定上の条件が鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないかどうかの観点に加え、特に実現性及び合法性の観点から妥当なものでなければならない。
不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節Ⅱ
一般に、地域要因について想定上の条件を設定することが妥当と認められる場合は、計画及び諸規制の変更、改廃に権能を持つ公的機関の設定する事項に主として限られる。
想定上の条件には、地域要因に係る条件と個別的要因に係る条件に大別されます。
例えば次のような想定上の条件があります。
地域要因の想定上の条件
・用途地域が変更されるものとして
・周辺にある嫌悪施設が移転したものとして
個別的要因の想定上の条件
・土壌汚染がある土地について土壌汚染が浄化措置がなされたものとして
・公共下水道が敷設されていないが、敷設済みのものとして
想定上の条件を設定するための要件
このような想定上の条件はやみくもに設定できるわけではありあません。
鑑定評価書の利用者の利益を害することがないように、次の要件を満たす場合に設定することができます。
⑴鑑定評価書の利用者の利益を害する恐れがないこと
想定上の条件を設定する場合において、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがある場合とは、地域要因又は個別的要因についての想定上の条件を設定した価格形成要因が対象不動産の価格に与える影響の程度等について、鑑定評価書の利用者が自ら判断をすることが困難であると判断される場合をいう。
不動産鑑定評価基準運用上の留意事項
この要件は、他の条件設定(対象確定条件、調査範囲等条件)についても必要とされる要件になります。
⑵実現性
実現性とは、設定された想定上の条件を実現するための行為を行う者の事業遂行能力等を勘案した上で当該条件が実現する確実性が認められることをいう。
不動産鑑定評価基準運用上の留意事項
なお、地域要因についての想定上の条件を設定する場合には、その実現に係る権能を持つ公的機関の担当部局から当該条件が実現する確実性について直接確認すべきことに留意すべきである。
この要件は、想定上の条件と他の条件の大きく異なるところです。
想定上の条件は、その想定した内容が実現することを前提として鑑定評価を行います。
したがって実現可能性のない、例えば「(建設計画もない)新駅ができるものとして」という想定上の条件設定はできません。
⑶合法性
合法性とは、公法上及び私法上の諸規制に反しないことをいう。
不動産鑑定評価基準運用上の留意事項
鑑定評価の条件は合法的なものでなければなりませんので、公法上・私法上の権利義務を排除した条件は認められません。
条件設定の制限
証券化対象不動産(各論第3章第1節において規定するものをいう。)の鑑定評価及び会社法上の現物出資の目的となる不動産の鑑定評価等、鑑定評価が鑑定評価書の利用者の利益に重大な影響を及ぼす可能性がある場合には、原則として、鑑定評価の対象とする不動産の現実の利用状況と異なる対象確定条件、地域要因又は個別的要因についての想定上の条件及び調査範囲等条件の設定をしてはならない。
不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節Ⅳ
ただし、証券化対象不動産の鑑定評価で、各論第3章第2節に定める要件を満たす場合には未竣工建物等鑑定評価を行うことができるものとする。
条件設定に関する依頼者との合意
1.条件設定をする場合、依頼者との間で当該条件設定に係る鑑定評価依頼契約上の合意がなくてはならない。
不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節Ⅴ
2.条件設定が妥当ではないと認められる場合には、依頼者に説明の上、妥当な条件に改定しなければならない。
想定上の条件の設定例
「土壌汚染が除去されたものとして」という想定上の条件を設定した場合の、鑑定評価書への記載例をご紹介します。
- 設定した条件
- 対象不動産には土壌汚染が存するが、除去されたものとして評価を行う。
- 条件設定の合理的理由
- 本鑑定評価においては、現実の状況と異なる個別的要因に係る想定上の条件を設定しているが、以下の点から鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれはないものと判断した。
- 実現性
- ・対象不動産に係る土壌汚染の除去を行う権限を有する依頼者から除去を行うとの表明を受け、かつ依頼者の有価証券報告書の確認等によりそのための資金調達力に問題がないことを確認した。
- 合法性
- ・当該土壌汚染の除去は土壌汚染対策法に従って合法的に行えるものである。
- 利害を害する恐れのないこと
- ・鑑定評価書の利用者は、依頼者及び〇〇であり、依頼者が別途作成する資料により土壌汚染の価格形成への影響の判断が可能であると考えられる。
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